怖くなんてなかったのに
『骸!俺、骸のこと大好きだよっ』
『いきなりなんですか気味悪い。』
『ふふっ…ただ言いたかっただけ!』
『…本当にあなたは、変な人ですね。』
死ぬことなんて怖くなかったんだ。
だって、俺がいる世界は血と憎悪に満ち溢れていたから。
いつ死ぬかも分からない。毎日が死と隣り合わせの世界。
そんな世界に俺は生きているから。
だけど、あなたに逢ってしまった。
あなたを好きになってしまった。
あなたを…、縛りつけてしまった。あなたが最も嫌う、ボンゴレファミリーというマフィアに。
今になって後悔した。
あなたを…、骸をボンゴレファミリーボスの霧の守護者にしてしまったことを。
――俺が、あなたを…愛してしまったということを
「リボーン…俺、多分もうすぐ死んじゃうと思うんだ。」
執務室の机で書類に目を通していた俺は、ソファーに座り同じように書類に目を通すリボーンを見た。
「……は?バカなこと言ってないで、この書類にサインしろ」
「うわっ…!」
俺の言葉が信じられなかったのか、それとも手元の書類に気を取られていたのか、リボーンの反応には少しの間があった。恐らく後者だろうなあと俺は思う。
しかもリボーンの手元にあった書類を、俺の顔面目掛けて投げるというおまけつき。
…ちょっと痛いんだけど。
痛みを訴えるようにリボーンを見れば、リボーンもまた俺を見ていた。
リボーンの揺れる瞳に、俺は怒ることも忘れ顔面に直撃してきた書類を綺麗に揃えた。
俺が、自分の死を直感したのはつい…先日のこと。何故かしらないけど、死を冷静に受け入れていた自分がいた。
揃え終わると俺の前に影がかかる。
リボーンだった。
「…多分、これからファミリー同士で大きな乱闘が起きる。ボンゴレへの被害は…計り知れない」
ボンゴレファミリー。
俺の大切な仲間。俺の大切な…、家族。
みんなを守ると決めたのに。俺の力では守り切れないんだ。…仲間がたくさん死んでしまうんだ。
リボーンを見つめると辛そうに顔を歪める。
「…それはお前の超直感なのか?」
「うん…。やっぱり、話し合いで解決って…難しいのかな…?」
ねぇ、リボーン。
マフィアだって人間。
殺し合いなんかじゃなく、話し合いで解決することだって出来ると思うんだ。確かに、今までだって十分思い知らされてきたよ。
話し合いで解決したかったけど、無理でこの手を血に染めてしまったことだって一度や二度じゃない。
でも、俺は願ってしまうんだ。無駄な殺しはしたくないと。みんなに生きていて欲しいと。
「お前は本当にバカツナだな。」
呆れたように呟くリボーンに、力無く微笑んだ。
そんな俺の頭をポンポンと叩くと、リボーンは真剣な顔で俺を見つめてきた。
「ファミリー同士の乱闘とは、…ミルフィオーレとのことだな…?」
「…そうだよ」
「そうか」
リボーンは、さほど驚かなかった。
もしかすると、気付いていたのかもしれない。
ミルフィオーレの動きが最近になって活発化してきたから。
何か考えるように再びソファーに腰を下ろしたリボーンに、俺は言葉を発した。
ギシッと後ろに体重を掛けた椅子が鳴る。俺は天井を仰ぎながら腕で視界ん遮った。
「リボーン…。俺はね、怖いんだ。…骸のことを思うと、死ぬことが怖くてしょうがないんだ」
だって、俺があの人をこの世界に縛りつけた。
マフィアを深く憎んでいたあの人を。
俺が霧の守護者にさえしなければ…。
俺の体を乗っ取とる
そう言ったくせに、俺の体を乗っ取ることなんてこの十年一度も無かった。
もう骸に、乗っ取ろうなんて考えはないんだ。あの言葉は、骸なりの鎖なんだと思う。
大嫌いなこの世界にいる上で、必要な理由。
大嫌いだけど、俺がいるから。
だから嫌なマフィア側についている、と。
「俺がいなくなったら…あの人はどうなっちゃうの…?」
自惚れなんかじゃない。あの人の目的が無くなってしまったら、この世界にいる意味は無くなってしまう。
それだけじゃない…。あの人の今までが無駄になってしまうんだ。
その上、俺は骸に伝えてしまったんだ、何度も何度も。
好き、大好きだと。
守護者にするだけじゃ物足りず、俺の心を骸に渡してしまったんだ。
"好き"
その言葉はあまりにも重い。
あの人は俺の告白をいつだって受け流していた。
俺の告白に対し、同意はしなかった。
でも、拒絶もしなかったんだ。
それが俺たちの関係で、それが俺たちの距離。
別にそれで良かったんだ。
遠すぎず近すぎない距離。
"好き"を返してもらおうなんて思っていなかったんだから。
「俺は…"好き"なんて、伝えちゃいけなかったんだ」
いつの間にか、俺の横に立っていたリボーン。俺は形振り構わずすがりついた。
―――
伝えた言葉の重みに気付いたときには、もう…手遅れだったんだ。
20080308
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