近くの恋
2
「…俺は本城心。この学校の生徒会長」
「へ、へー…」
あの心が生徒会長とな。どうなってんのこの学校。
…ってまあ、心は総長とかいう物騒な肩書きなのに昔から優しかったけどさ。
どこかに向かう心に、俯きながら付いていく。
「こんな時期に転校なんて、珍しいな」
「う、うん。親の仕事の都合で」
「へー」
たわいもない会話と共に歩く。正体がバレやしないかひやひやしながら。
「この学校に来るまでどこにいたんだ?」
「あー…、アメリカにいたんだ」
「ふーん」
心って優しいよな。こんなもさい外見の妙な転校生にもちゃんと話を振ってくれるんだから。
それに引き換え、副総長のあいつは訳わかんなかったし横暴だった。でも三人で仲良くしてたっけ。ああ、懐かしい。
「ずっとアメリカに?」
「ううん。中三までは日本にいた」
「それもまた大変な時期に引っ越したんだな」
「まあ、うん。母親の仕事がちょっと特殊だからさ」
そう。アメリカに引っ越したのも急だった。
当時仲良くしていた心達に別れも告げずに向こうに渡ったし。そして俺は。何も言わずにこの心に勝ち逃げしてしまったんだ。ああ、青春の思い出…。
「どうしてこの学校に?」
「えー、と。理由は何個かあるんだけど、まず全寮制だったのと、山奥で閉鎖された環境にあったのと。それが最大の理由かな」
「この学校に知り合いとかいんの?」
「し、知り合いは…、いない。母親とここの理事長が知り合いで、そのツテで…」
嘘をついてしまったのは心苦しいけれど。知り合いなら今しがた目の前にいるし。
「あっちにいるとき、日本が恋しくならなかったの?」
「あ、うん。日本がっていうより、仲良くしてた友達と離れ離れになってたのが、寂しかったかな」
「へー。中学の時の友達?」
「いや、学校の友達じゃなかったんだけど…」
言いかけて、はたと口を噤む。ヤバいヤバい。ついポロっと心達の事を口走ってしまいそうだ。
内心一人で焦っていると、心の足がピタリと止まる。俺達は校舎内に入ってきていて、止まったのは大きなドアの目の前。見上げてみると、ドアの上には風紀室というプレートが掲げてある。風紀室?風紀室って。なんでいきなり風紀室になんて来るんだろ。
「入んぞ」
心はノックもせずその大きなドアのノブに手をかけ開く。俺も後ろからおそるおそる入ると、中にいたのは一人だけ。
「!」
ヤバい。あいつだ。佐原敦。心の幼馴染でハートの副総長。すっごい横暴で考えていることがよくわかんない宇宙人みたいなやつ。なんで優しい心と宇宙人敦が仲良く幼馴染なんてやってこれたのかわかんないくらい。
「こいつは風紀委員長の佐原敦」
「はー?何言ってんの心?」
心は俺に敦のことを紹介してくれる。敦は偉そうにソファ座りながら、そんな心にケチをつけた。相変わらず横暴なやつ。
「敦」
心が広い心も流石にこの横暴な態度に思う所があったのか、敦を諌めた。
「俺さ。お前のそういう時代を逆行してる感じって嫌いじゃないんだけどさ」
敦が立ち上がる。何なんだ急に。何を言っているのだろう?
「こういうアフロヘアっつーの?ヒッピー系?」
歩いてきて、俺の目の前でピタリと止まり、そして。
「とりあえず、室内では被りものは取れよ」
俺のウィッグをむずっと掴んで取り去った。
「久しぶり、凪」
敦は俺の顔を覗きこんで、そのお綺麗な顔に少年のような笑みを浮かべた。なんでバレたの。
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