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近くの恋
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期待と不安が入り混じった気持ちで、一歩足を踏み入れた。
高校二年、5月。ゴールデンウィークも明けたこの中途半端な時期に、俺はこの学校に転入することになった。全寮制の男子校。偏差値が高くて有名なこの学校は、山奥という立地で全寮制、そして理事長が母の知り合いという条件が揃っていて、正直転入先はここ以外選択肢がなかったといえる。

「迎え、来るって言ってたのにな…」

門から少し入ったところで俺は立ち尽くす。思っていたよりも広すぎる敷地内。どこに何があるかなんて知らないし、なんせ急な転入で学校とのやりとりもほとんどないまま今日という日を迎えたのだ。俺が持っている情報は今日が入寮日だということと、ここに迎えが来るということだけだ。

「悪い、遅くなった」

きょろきょろと辺りを見回していると、急に後ろから声がかかる。振り向いて見てみると。

「…っ!」

そこに立っていたのは、目を見張るほどの美形。
なんで。どうしてここにいるの。

「…」

相手もこちらを見て驚いている。しかし相手は多分久々の再会に驚いているわけではないだろう。相手が驚いているのは多分俺の外見。
俺は今、少しごつめの黒いウィッグを被り、レンズの分厚い眼鏡をしているので、俺の素顔は気付かれていない。相手は、このおしゃれな西洋風の学校におおよそ似つかわしくない転入生に驚いているだけだ。うん、きっとそう。そうに違いない。

「…君が転入生の荒川凪君、だよね?」

ああ、よかった。やはり俺の素性に気が付いた訳ではないようだ。

「は、はい…」

俺は俯いたままそう返事するしかなかった。
なんで、こんなところにいるんだ。ここら辺一帯では知らぬものはいないといわれているチーム“ハート”の総長、本城心が。

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