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近くの恋
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「ぶっ!?」

書類を届けに風紀室を開けると、いきなり何かが飛んできて俺の顔面にクリーンヒットした。俺の顔面にアタックしたのはどうやらボールのようで、てんてんと足元に転がっている。

「あ、あつしっ!何やってんの!」

俺は顔を手で押さえながらあらん限りの声で叫ぶ。この部屋の長の名前を。風紀委員長佐原敦(さはらあつし)。こいつがまた厄介な奴で。

「何って。ドッジボール」

馬鹿か。馬鹿なのか。なんで風紀室の中でドッジボールなんかやってんの。よくよく見ると、部屋の机は端に寄せられ、床にはカラーテープで線が引かれている。部屋の中でボール遊びしちゃダメだって小学校で言われなかったのか。

「なんか用かよ。凪」
「なんか用かよ、じゃない!」
「痛てっ」

一つ説教でもしてやろうと思ったそのとき、敦の肩にボコッとボールが当たった。

「敦アウトー」

向こう側のコートに居る副委員長がガッツポーズして、チームメイトであろう委員の奴らとハイタッチしてる。もう、なんなのこの委員会は。なんでこんな小学生みたいな奴らばっかり集まってんの。

「顔面セーフだし」
「顔面当たったの凪じゃん」

しれっとノーカウントにしようとする敦に、副委員長達が言い返す。
俺はというとなんか鼻の当たりがじんじん痛くて。

「あ…」

手にヌルっとした感覚があると思って手を見たら、血が付いている。ヤバい。鼻血出た。

「じゃあ俺凪と命がえな。いーだろ凪…ってどーしたのお前」

俯いて鼻をおさえる俺に、敦は訝しげに尋ねた。俺は必死に手で血をおさえようとするが、その抵抗も空しく血はポタポタと廊下に滴る。

「うわっ!お前鼻血出てんじゃん!鼻血ブー子!」

心配するどころか変なあだ名までつけてくる始末。
もうほんとなんなの敦の奴。見た目はいいのに中身はまるで悪ガキで小学校から成長してないんじゃないの。しかも敦は心と幼馴染で仲が良い。大人な心とずっと一緒にいて仲良いのになんでこいつだけこんななのかはきっと永遠に謎のままだろう。

「大丈夫かブー子!」
「ティッシュ使うかブー子!」
「保健室行った方が良いんじゃないのかブー子!」

わらわらと風紀委員達が集まってくる。ほんともう何。何でこんなに子供ばっかりなの。

「…これ書類。保健室行って来る」
「おー。行ってら」

書類を敦に押し付けて風紀室を後にする。

「じゃあ敦が外野で再スタートな」
「は?なんでだよ!俺凪の命貰ったし!」

後にした風紀室からはそんなやりとりが聞こえて来て、思わずため息が出た。
絶対心に言いつけてやる。敦の奴、心の言うことは結構聞くし。

敦は学校で心に次いで人気があるけど、それは全く理解できない。確かに顔はいいけど、中身がまるでガキだし。心のが全然カッコいいし、優しいし。心の方が…、と考えてハッとする。俺心のことばっか考えてるじゃん。そうだ、俺はそんなカッコ良くて優しくて何でも出来る心に告白されて。思い出すと顔に血が集まってきて、鼻血の勢いが増しそうだったので慌てて違うことを考えるように試みた。
そういえば保健委員長の恋人ってどんな人なんだろう。やっぱり可愛い人なのかな。まあ男子高なので可愛いといっても男なのだが、男だからといって侮れないほど可愛い人は可愛いんだよな。あの保健委員長の恋人なのだからきっと優しくて気立てがいい人なんだろうな。というかそうでないとダメだ。俺が身を引いたんだから、委員長には幸せになって貰わないと。そんなことを考えているうちにいつの間にか保健室に辿りついていた。

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