近くの恋
1
「…恋人ができたらしい」
「ああ、保健委員長?」
俺は泣きたくて叫びたい気持ちを抑えてなんとか声を絞り出す。もう何度目か解らない位の失恋。そんな俺とは対称的にのんきな相槌を打つのは、俺の親友兼うちの学校の生徒会長様。生徒会長である本城心(ほんじょうしん)は俺の親友でもあるから俺はなんでも相談している。もちろん恋愛のことだって。
俺は保健委員長が好きだった。きっかけはそう。隣の席になって、俺が教科書を忘れてしまったときに一緒に見せてくれたんだ。好きだったけどなかなか言い出せずにいた。そして今日、ついに聞いてしまったのだ。恋人ができたという話を。流石に本人からではなく噂でだったが。
「泣いて良い…?」
ここは生徒会室。今は俺と心の二人きり。ちなみに俺は生徒会副会長。この生徒会室を使う権利はあるし、ここでなく権利も当然持ち合わせている。
「…まーいいけど。おいで」
心が両手を広げてくれる。これは抱きしめて頭を撫でてくれるサインだ。俺は一直線に心の胸へと飛びこんだ。ギュッと心の腕に包まれると、安心感で身体の力が抜ける。そしてぽろぽろと涙がこぼれてきた。
「ふ、っ…ううっ」
ポンポン、と頭を撫でられながら抱きしめられる。
「どうしてこんなに振られるんだろー…」
「振られるってお前…振られたことねーだろ。付き合ってもいなけりゃ告白すらしてないじゃねーか。今まで星の数いた好きな奴に誰一人として」
そう。俺は多分惚れっぽい性格をしている。だから失恋が決定してもすぐに違う人を好きになるのだが、また失恋しての永遠ループである。
「だってさー…」
「お前さ、それ多分好きじゃなかったんだと思うぜ」
「…?え…?」
「好きってさ、もっとドロドロしてて、嫉妬して。でも離れられないんだよ。泣いてはい終わりーなんかで諦められるよーなもんじゃねーの」
心は優しく俺の頭を撫でる。心の手は心地良い。それこそ失恋の痛みなどふっとんでしまいそうなほどに。
「なに、それ。じゃあ心も恋してるの?」
「んーん」
「それじゃあ…」
「俺は、愛してる」
「へ?」
心のやつ、いまものすごいことを言わなかったか。
「あ、あい…!心ってば恋人いたの?」
「んーん。恋人ではないけどね。もう愛しちゃってんの」
「そんなに好きなの!?」
意外だ。勉強もスポーツもなんでもできて、顔もこの学校の中でも飛びぬけてカッコいい心に好きな人がいて、しかも片想いだなんて。じっと心の顔を覗きこむと、その少し茶色みを帯びた瞳とぱっちりと目があう。
「ふっ、ぶっさいくな顔。鼻水くらい拭け」
心が笑う。どーせ俺は心とは違って女顔ですよ。しかも泣いてたから目が腫れてますよーだ。さすがに鼻水は恥ずかしいから拭く。
「でも全部が愛おしいんだよな」
心はふわりと笑った。
「もう俺にしとけよ。凪(なぎ)」
「へ?」
「俺より凪のこと愛せる男なんていねーよ?」
「!?」
突然の事で頭が付いていかない。これって、告白ってこと…?
「俺はずっと好きなのに。お前はあっちにフラフラこっちにフラフラ」
「そ、それは…」
返す言葉もないけど、惚れっぽい体質はどうにもならないんだ。
「返事は?」
「え…、と」
パニック中の頭で必死に考えて出した答えは。
「保留、で」
「おまえなあ…」
心は呆れたように笑った。
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