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近くの恋
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「…恋人ができたらしい」
「ああ、保健委員長?」

俺は泣きたくて叫びたい気持ちを抑えてなんとか声を絞り出す。もう何度目か解らない位の失恋。そんな俺とは対称的にのんきな相槌を打つのは、俺の親友兼うちの学校の生徒会長様。生徒会長である本城心(ほんじょうしん)は俺の親友でもあるから俺はなんでも相談している。もちろん恋愛のことだって。
俺は保健委員長が好きだった。きっかけはそう。隣の席になって、俺が教科書を忘れてしまったときに一緒に見せてくれたんだ。好きだったけどなかなか言い出せずにいた。そして今日、ついに聞いてしまったのだ。恋人ができたという話を。流石に本人からではなく噂でだったが。

「泣いて良い…?」

ここは生徒会室。今は俺と心の二人きり。ちなみに俺は生徒会副会長。この生徒会室を使う権利はあるし、ここでなく権利も当然持ち合わせている。

「…まーいいけど。おいで」

心が両手を広げてくれる。これは抱きしめて頭を撫でてくれるサインだ。俺は一直線に心の胸へと飛びこんだ。ギュッと心の腕に包まれると、安心感で身体の力が抜ける。そしてぽろぽろと涙がこぼれてきた。

「ふ、っ…ううっ」

ポンポン、と頭を撫でられながら抱きしめられる。

「どうしてこんなに振られるんだろー…」
「振られるってお前…振られたことねーだろ。付き合ってもいなけりゃ告白すらしてないじゃねーか。今まで星の数いた好きな奴に誰一人として」

そう。俺は多分惚れっぽい性格をしている。だから失恋が決定してもすぐに違う人を好きになるのだが、また失恋しての永遠ループである。

「だってさー…」
「お前さ、それ多分好きじゃなかったんだと思うぜ」
「…?え…?」
「好きってさ、もっとドロドロしてて、嫉妬して。でも離れられないんだよ。泣いてはい終わりーなんかで諦められるよーなもんじゃねーの」

心は優しく俺の頭を撫でる。心の手は心地良い。それこそ失恋の痛みなどふっとんでしまいそうなほどに。

「なに、それ。じゃあ心も恋してるの?」
「んーん」
「それじゃあ…」
「俺は、愛してる」
「へ?」

心のやつ、いまものすごいことを言わなかったか。

「あ、あい…!心ってば恋人いたの?」
「んーん。恋人ではないけどね。もう愛しちゃってんの」
「そんなに好きなの!?」

意外だ。勉強もスポーツもなんでもできて、顔もこの学校の中でも飛びぬけてカッコいい心に好きな人がいて、しかも片想いだなんて。じっと心の顔を覗きこむと、その少し茶色みを帯びた瞳とぱっちりと目があう。

「ふっ、ぶっさいくな顔。鼻水くらい拭け」

心が笑う。どーせ俺は心とは違って女顔ですよ。しかも泣いてたから目が腫れてますよーだ。さすがに鼻水は恥ずかしいから拭く。

「でも全部が愛おしいんだよな」

心はふわりと笑った。

「もう俺にしとけよ。凪(なぎ)」
「へ?」
「俺より凪のこと愛せる男なんていねーよ?」
「!?」

突然の事で頭が付いていかない。これって、告白ってこと…?

「俺はずっと好きなのに。お前はあっちにフラフラこっちにフラフラ」
「そ、それは…」

返す言葉もないけど、惚れっぽい体質はどうにもならないんだ。

「返事は?」
「え…、と」

パニック中の頭で必死に考えて出した答えは。

「保留、で」
「おまえなあ…」

心は呆れたように笑った。

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あきゅろす。
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