5
反射的に僕が出した右手は、グーだった。
対する井上さんは…
…チョキ。
「あっちゃー、負けちゃったあ。」
えへへ、と彼女は頭を軽く掻いた。
それじゃああたしから言うね、と言って、ゆっくりと深呼吸を始める井上さん。
その瞳が、突然真剣なものに変わる。
一瞬の間を置いて彼女が言った言葉に、僕は思わず自分の耳を疑った。
「…あ、あのね、……あたし、石田君が好き!!」
「…え?」
予期せぬ発言に、時間が止まった気がする。
しかしその感覚とは裏腹に、僕の口は勝手に言葉を紡いでいた。
「僕も…好きだよ。」
「ほ…ホント…?」
「うん、嘘じゃないよ。……井上さんが好きだ。」
改めて口にするのはやはり恥ずかしくて、また眼鏡をくいっと上げた。
なんだか、夢みたいだ。
彼女と両想いだったなんて。
「あたし、実はさっきまで泣いてたんだよ……。でも、石田君がきてくれて、なんだか元気になっちゃった!」
照れくさそうに笑う井上さん。
僕は思わず、その身体をそっと抱きしめた。
「い、石田君……」
一瞬で顔を真っ赤に染める井上さん。
しかし、かく言う僕も同じようなものだろう。
やがて、遠慮がちに僕の身体に腕が回った。
「…なんか、幸せだなあ……そうだ!晩ご飯食べていかない?石田君。」
ぎゅっと僕に抱きついたまま、彼女は言う。
「それじゃあ、お邪魔しようかな。」
「じゃあ、サバのアイス添え和風風味をごちそうするねっ!」
「い…いや、遠慮しとおくよ。また次の機会に……」
「えー、すっごくおいしいんだよ?これ。」
ぷうっと頬を膨らませて、それでも井上さんは笑っていた。
そんな彼女に、僕も自然と笑みがこぼれる。
お互いの温もりを間近に感じながら、僕らは声を上げて笑いあった。
end.
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