愛する貴方に誓いましょう
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奴の髪は、目立つオレンジ色。だから、見つけだすのは簡単だ。人込みに埋もれてしまう程、小柄でなければ。
「……何処へ行ったのだ……」
ルキアは、屋台行列の中に居た。
正確には、そこに居るしかなかった、だ。浴衣を着ている為、洋服のときに比べて動きにくい。しかも彼女の小さな身体は人々の重圧に耐えられないので、流されてしまうのだ。
「お好み焼きはいかがですかー」
「かき氷1個200円だよー」
屋台の店主の声が、やけに煩く聞こえた。10分程前までは、綿飴を片手に一護と話していたから、そうは感じなかったのに。
ルキアは歯を食い縛った。自分の身長が低いことを、呪いたくなった。
――もし、井上だったら、一護を直ぐに見つけられるだろうに……。
「……っ、は」
荒くなる息を整えながら必死にオレンジ色を探す。
「う、わっ!」
女性の肩にぶつかり、バランスを崩した。
仰向けに倒れそうになった直前、誰かに腕を捕まれ、屋台行列の外へ引き摺り出された。
「……やっと見つけた」
「……!」
その声に顔を上げると、息を切らしながら笑っている一護が。
「い……いち……」
「何泣いてんだよ。馬鹿だな、はぐれただけじゃねえか」
「な、泣いてなど……」
知らない内に、目には涙が溜まっていた。
「もう、大丈夫だから」
一護はルキアに手を差し出した。
「……うむ」
ルキアはそれをギュッと握り、微笑んだ。
2人は堅く手を繋ぎ、歩き出した。
「……背が高ければ、良かった」
辿り着いたのは小野瀬川。花火大会が終了し、観客の殆どが屋台に集まっている今、此処が1番静かな場所だ。賑やかなのがあまり得意でない2人にとって、此処が1番合っているのかもしれない。
ルキアが呟いたのは、一護が土手に腰を下ろしたときだった。
「……今更かよ」
一護は、未だ立っているルキアを見上げ、からかう様に笑った。
「背が高ければ、先程の様に、貴様を見失ずにすんだかもしれない。迷惑をかけずにすんだかもしれない」
「はあ」
「背が低ければ、不便なことが多過ぎる。高い所に手が届かぬし、遊園地等の身長制限に引っ掛かるし……」
「いや」
一護はルキアの手を引っ張り、彼女の身体を自分の腕の中へ導いた。
「すっぽり入るじゃねえか。便利だろ」
「……何処がだ」
とかなんとか言いながら、ルキアは一護の胸に身を預け、穏やかに笑っている。
「……貴様の体温は丁度良いな。……心地良い」
「何言ってんだ」
「落ち着くぞ、凄く」
「……うるせー、馬鹿」
一護は外方を向いた。辺りが暗い所為で見えにくいが、きっと赤い顔をしているだろう。
ルキアはその赤いであろう頬に、そっと口付けた。
「ばっ……、何してんだ、てめえ!」
一護は怒鳴り、ルキアに向き直った。
それを待ってましたと言わんばかりにルキアはニヤリと笑い、今度は一護の唇に口付ける。
ふわふわと舞い落ちる羽根の様な、感触。物足りなくなった一護は、ルキアの艶やかな唇を、ちろりと舐める。
綿飴の味がした。とろけるような甘さだ。
鼓動は次第に早まっていった。
どれだけそうしていただろうか。漸く互いの唇を離し、強く抱き締め合う。相手の心臓の音で、何故だか心が安らいだ。
2人が、こんなに素直に、相手に甘えられるのには、理由があった。その理由とは、「去年の花火大会は2人で来られなかったから」である。
一護を護る為、尸魂界へと行ってしまったルキア。その後、喜助の下で猛特訓した一護。
そして一護は、誓った。
「絶対に助けだす」
「え?」
「去年の花火大会の帰りな、誓ったんだよ。お前を絶対に助けだす、って」
「……そうか」
ルキアは恥ずかしそうに笑い、一護の頬を撫でた。
「……今年も誓いを立ててくれぬか」
「……何をだ?」
一護は首を傾げて問う。
「私の傍に居ると。一生だ」
ルキアは顔を赤らめながら、答えた。
一護は口元が緩んでしまった。可愛くて、しょうがない。
「……誓ってやるよ」
「本当か?」
「ん」
「……では」
ルキアは深く息を吸う。
「……汝、黒崎一護は、朽木ルキアの傍を片時も離れぬことを、誓いますか」
神父の台詞に似たものを、口にした。
「お前……それ、何処で覚えたんだ?」
一護は、そう問わずにはいられなかった。
「てれびどらまで見たのだ」
「……」
「……一護。返事は」
「え……あ、ああ……誓います」
「うむ」
ルキアは満足そうに笑った。
「……じゃあ汝、朽木ルキアは、黒崎一護の傍を片時も離れぬことを、誓いますか」
一護もつられる様に笑い、ルキアの真似をしてみた。
「……誓おう」
ルキアは更に綻んで、頷いた。
「……離れぬ。死なない限りな」
「……バーカ。俺は死んでも離してやらねえから」
「何!? ……戯け! ならば私は、生まれ変わってもそれからまた死んでも離してやらぬ!」
「なっ……俺はそのまた先も離さねーしっ!」
「私はそのまた先だ!」
「……」
「……」
張り合ったことが可笑しく思えて、2人は苦笑いをする。
「……一護。ばかっぷるというのは、正に私達のことだな」
「全くだ」
「別に構わぬがな」
「……ああ。全くだな」
コツリと合わせた額が、とても熱かった。
明日からは、また下らないことで、喧嘩をしてしまうだろうから。今日はせめて、甘い時間を。
秋茜が、2人を包み込む様に、何時までも見守っていた。
「……もう少し人目を気にしたらどうなのかな」
呆れた様にそう言ったのは、雨竜だ。一護とルキアの様子を、陰から見ていたのである。
だからといって、見たくて見ているのではない。偶々、視界に入ってきたのだ。彼の隣に居る織姫も同様だ。
「……そう思わないかい? 井上さん」
織姫に同意を求める様に、雨竜は問う。
「え……良いんじゃないかなあ。仲良しで」
織姫は、悲しそうに微笑んだ。
雨竜はしまった、と思い、今更ながら口を手で隠す。
――僕はなんて馬鹿なんだ。
織姫の気持ちを知っている。それなのに……。後悔先にたたずだ。
「あ……あの、井上さん」
「でも私……未だ諦めてないよ」
「井上さん……」
「私、頑張るから」
織姫の笑顔に、悲しみの色はもう無かった。
雨竜はグッと拳を作り、唾を飲み込む。
「……あのさ、井上さん」
「ん、何?」
「……黒崎が朽木さんの傍に居るなら……」
「……石田君?」
「……僕が……井上さんの……そ――」
「織姫ー!」
雨竜の言葉は、こちらに駆け寄ってきたたつきによって遮られる。
「あ、たつきちゃーん!」
「ごめん、織姫。遅れちゃって! ……お、石田?」
「あ……ああ、どうも」
雨竜はぎこちなく返事をする。
「……ねえ、石田君。さっきの続き、聞こえなかったんだけど……」
答えを待つ様に、雨竜を見つめる織姫。
「え? あ、いや……何でもないんだよ……」
雨竜は泣きそうな顔でそう言った。
「僕が井上さんの傍に居る」なんて、今更、言える訳が無い。
雨竜の恋が実るのは、果たして、何時になるのやら。
End
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