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 休日の所為か、空座本町駅前は、何時になく込み合っていた。
 特に人混みの多いデパートの入り口の前に、桃は1人立っていた。勿論、着ているのは死覇装ではなく、ジャケットとロングスカート。
「10時15分……。皆、時間間違えてるのかな」
 10時にこの場所で会おうと約束していたのだが、冬獅郎達の姿は何処にも無い。
「……やっぱり、無理に誘ったのがいけなかったのかな」
 桃は悲しそうに呟いた。
 彼女が此処――現世に居るのは任務だからではない。自ら、現世を見て回りたいと思ったからだった。
 そこで、冬獅郎を誘った。だが、あまり現世に馴染みが無いのは彼も同じなので、他の死神達より現世に詳しいルキア、16年間現世で生きてきた死神代行・一護にも同行を頼んだ。
 だが、自分の頼みを素直に了解してくれた3人は、来てくれない。不安が募るばかりだった。
「……1回、連絡してみよう!」
 桃は伝令神機を胸ポケットから取出した――……直後、見知らぬ男に右腕を掴まれる。
「ええっ! あ、あの……」
「君、1人だよね?」
「いえ、待ってる人が……」
 桃の答えに、男は笑った。そして伝令神機――彼から見れば携帯――を指差した。
「そいつが来ないから、連絡しようとしてたんじゃないの?」
「う」
「はは、やっぱり。来ないってことは、君、遊ばれてたんじゃない?」
「なっ!」
「折角だから、俺と一緒にどっか行こうよ」
「……」
 桃はプルプルと肩を震わせた。
「……遊ばれてた、ですって? 言ってくれたわね……」
 そして自由に動く左手を、男の顔の前に突き出した。
――罰なら、後で幾らでも受けてやるわ!
「縛道の――」
 言い終わらない内に、ドカッと大きな音がした。男は口から血を出し、地面に倒れる。
 桃の目は点になった。
「あれ、未だ言い終わってないのに。――!」
 気が付くと、目の前に少年が立っていた。橙の髪に、琥珀色の瞳。
「……黒崎君!」
「雛森、待ち合わせ場所はコンビニの前だったろ。皆で手分けして探してたんだぜ」
「え? だって、此処がコンビニでしょ?」
「否、デパートだから」
 一護は苦笑いしながら答えた。まあ、桃は現世に疎いのだから、仕方がない。
「ええっ!? ご、こめんなさい! ……ねえ、足、上がってるけど……」
 確かに、一護は片足を高く上げていて、その姿は不格好である。
「そいつを蹴ったからに決まってんだろ」
 一護は呆れた様に言うと、倒れている男を指差した。
「俺が蹴らなかったら、お前、人間相手に鬼道使ってただろうし」
「聞こえてたの?」
「ああ。絡まれてたお前を見つけて、助けようとしたら、縛道の……って。副隊長がそういう事しちゃ、駄目だろ」
「えへへへ……。助けてくれて、ありが――」
「てっ、め……よくも……」
 倒れていた男が桃の言葉を遮り、ゆっくりと起き上がる。
 すると、一護は桃の前に立ち、男を睨み付けた。
「……俺の女に、手え出すんじゃねえ」
「ひい!」
「分かったのか? あ?」
「は、はい! ごめんなさい!!」
 男は泣きそうな顔をして、一目散に駆け出した。
 一護は、桃を振り返った。
「……わり、ああ言っとかないと逃げてくれねえかと思ってさ」
「ううん、分かってるよ」
「お前には、冬獅郎だもんな」
「黒崎君には、ルキアさんでしょ?」
「うるせえ!」
 一護は顔を赤らめながら、怒鳴った。だが先程の様な迫力は無く、桃にクスクスと笑われる。
「わ、笑うな!」
「……一護」
 背後から、桃とは別の声がした。
 声の主はルキアだった。
「ルキアさん!」
「ルキア、雛森なら見つか――」
「私はこの耳でちゃんと聞いたぞ……」
 ルキアの声は、まるで怨霊の様だ。笑っている顔も、恐ろしい。
「え、何言ってんだ?」
「……」
 訳が分からず、目を丸くする一護に、ルキアはズンズンと大股で近付く。
「おい、ルキア?」
「よくも雛森副隊長を『俺の女』などと……」
 何故持っているのかはさておき、ルキアはマジックペンを取り出した。
「この戯けが! バロン閣下にしてくれる!」
「は!? あれは演技だぜ! 俺が雛森に謝ってたの、聞こえなかったのか!?」
「そんなでたらめ、聞きたくない!」
「本当だって!」
「言い訳など要らぬ!」
 ペンのキャップが取り外されたので、桃は慌ててルキアに駆け寄る。
「ルキアさん、止めて! 黒崎君は私を護ろうとしてくれただけで……」
「分かっております、雛森副隊長。ですから今、こやつに褒美を差し上げるのです」
 ルキアは必死な桃に向かって、ニッコリと微笑んだ。
 桃はサアーッと血の気が引くのを感じた。
「ルキアさ……」
「雛森」
「え……日番谷君!」
 後ろから肩を掴まれ、振り返ると、そこには冬獅郎が。
「こんな所に居たのか。探したぜ」
「ごめんなさい、待ち合わせ場所を勘違いしてて……」
「そうだったのか。……何だアレは」
「え……」
 桃は冬獅郎の視線を辿った。
 一護が白目をむいていて、鼻の下にはカイゼル髭を書かれていた。彼の隣で、ルキアは満足そうに笑っている。
「ああっ、黒崎君! ……間に合わなかった……」
「? どういう意味だ」
「実は……かくかくしかじかで……」

「……成程な。それで、朽木は勘違いしてるって訳だ」
「うん……私の所為だ」
 桃は、泣きそうになりながら言った。
「……どうしよう」
「説明しても、聞き入れてくれないだろうな。あの状態じゃ」
 冬獅郎は、ルキアをまじまじと見つめる。
 ルキアは一護に背中を向け、腕組みをしていた。そんな彼女を、一護は鼻の下を片手で押さえながら、横目で睨んでいる。
「仕方無え……おい、俺達が飲み物買ってくるから、お前等は何処か座ってろ!」
 冬獅郎は一護とルキアに指示を出すと、桃の腕を掴んだ。
「行くぞ、雛森」
「う……うん」

 冬獅郎は自動販売機の取り出し口に手を突っ込み、オレンジジュースの缶を取り出した。
「……これで全部か」
 腕に抱えている缶は4つ。これでは両手が塞がってしまう。
 桃に手伝ってもらう為、声を掛ける。
「雛森、半分持っ――」
 しかし、隣に居た筈の彼女の姿は消えていた。
「あいつ何処に行きやがっ……」
「おーい、日番谷君!」
 こっちこっち、と遠くの店の前で手招きをする桃。冬獅郎は溜息を吐き、渋々彼女の元へ足を進めた。
「……何だよ」
「見てこれ……」
 桃の人差し指の先には、小さな人形付きのキーホルダーが在った。フワフワした金髪、袖の無い真っ白な服、背中には小さな羽根。天使を連想させるが、何故か弓矢を持っている。しかも、矢の先端はハート型だ。
「お客様、キューピットを知らないのですか?」
 店の奥から、女性店員が現れた。
 桃と冬獅郎は初めて聴く詞に、首を傾げる。
「きゅーぴっと?」
「恋の神様で、人と人を結び付けてくれるんです。……それにしても、キューピットを知らないなんて、珍しいですね」
 店員の言葉に、冬獅郎は苦笑いした。
 だが、桃はキューピットの人形を見つめ、何か考え込んでいる。
「……」
「どうした、雛森。欲しいのか」
「……」
 桃は黙ったまま、顔を上げた。
 そして、真剣な表情で、言った。
「日番谷君……私達、きゅーぴっとになろう!」
「……は?」

 4つ並んでいる中で、1番右のベンチに一護、1番左のベンチにルキアが座っていた。言わなくてもお分かり頂けるだろうが、完璧にお互いを避けている。
「ルキアさん、お待たせ! はいこれ」
「黒崎、飲むか?」
 冬獅郎は一護の隣、桃はルキアの隣に腰掛け、缶を差し出した。
「あ、有難うございます」
「ああ、サンキューな」
 一護とルキアはそれを受け取り、プルトップを持ち上げ、ジュースを口に含んだ。
(じゃ、作戦開始ね!)
(ああ)
 冬獅郎と桃は顔を見合わせ、同時に頷く。
 そして、話を切り出した。
「前から思ってたけど」
 声が、重なる。
「朽木って、美人だよな」
「黒崎君って、格好良いよね」
 今度は、ジュースを吹き出す音が重なった。
「な、何言ってんだ!? 冬獅郎は雛森と付き合ってんだろ!?」
「え……雛森副隊長は、日番谷隊長とお付き合いしているんですよね?」
 ティッシュで口を拭いながら問う一護とルキアに、冬獅郎と桃は、こう答えた。
「一体誰がそんなこと言った」
「付き合ってなんかいないよ」
 その答えに一護とルキアはあんぐりと口を開け、呆気に取られた。
 冬獅郎と桃は、そんなことお構いなしである。
「今、お前と朽木、喧嘩してんだろ。だったら俺があいつを貰っちゃうぜ?」
「……」
 一護はゴクリと唾を飲む。
「仲直りしないなら、私が黒崎君と付き合っちゃおうかな?」
「……」
 ルキアはギュッと唇を噛む。
「いいんだな?」
「いいのね?」
 追い討ちをかけられた一護とルキアは、同時にベンチから立ち上がり、怒鳴った。
「駄目だ!」
「無理です!」
「……ルキア?」
「……一護?」
 そして大声を上げた相手の顔を、キョトンとしながら見る。
「ぷ……!」
「あははは!」
 その様子が可笑しかったのか、冬獅郎と桃は笑いだす。
 一護とルキアはポカンとした。
「……はは、何だお前等、一緒になって……」
「2人共おもしろいね……あははは……!」
「……え……」
「な、何だ……」
「……じゃ、頑張れよ」
「喧嘩はもう駄目だからね」
 冬獅郎と桃はそれだけ言うと、肩を震わせたまま、一緒にデパートの中へ入ってしまった。
 取り残された一護とルキアは、もう何が何だか分からずにいた。
「何だ……あいつら」
「分からぬ……。一護」
「あ?」
「……すまなかった」
「……」
 ルキアの素直な言葉に、一護は優しく笑った。
「……とっくに許してんだよ、バーカ」

 ……一方、冬獅郎と桃は。
「随分気に入ってるみたいだな」
「えへへ。買ってくれて有難う」
 桃ははにかみ、キューピットの人形を大事そうに握り締めた。一護達の所へ戻る前、冬獅郎に買ってもらったのである。
「……さ、あの2人も仲直りしただろうし、戻ろう! 今から4人で色んな所回りたいし!」
「……雛森」
「ん?」
「お前って昔から、人のことばっか気に掛けてるよな。それが長所みたいなもんだけど」
「……」
 桃は暫く黙った。
 だが、また笑顔になり、得意げに言った。
「今日は特別なの。だって今日の私達は、あの2人のキューピットでしょ!」
「……そうだったな」
 微笑んだ冬獅郎の手にも、キューピットの人形が握られていた。




End


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