Letters warning!
┗4444Hit 夏みかん様へ
 そろそろ、休憩時間が終わる頃だ。もう執務室に戻らなければならないのかと思うと、吐き気がしてくる。
 それは今日に限ってではない。何しろ、あの不真面目な美女と、毎日仕事をしているのだから。
 だが今日は、特に最悪なのである。溜息を吐き、自室の扉を閉めた。

「……やっぱり来たか」
 執務室に到着した冬獅郎の第1声は、それだった。
 彼の書斎机の上には、山積みの手紙。
「今年も数が減りませんね」
 乱菊が、自分の書斎机に積まれた手紙を、紐で束ねながら言う。
「そろそろ諦めてくれても良いんじゃねえか……?」
 冬獅郎は呻きにも似た声で呟き、頭を押さえた。
 毎年、夏祭りの前日になると、各隊にはお誘いの手紙が届く。
 そして毎年、他隊に比べて、その数が遥かに多い隊がある。その隊とは勿論、美形で人気者なツートップが君臨する、十番隊だ。
「隊長。隊長宛の手紙、こっちに持ってきて下さい。あたしの分と一緒に捨ててあげますから」
「否。その前に全部読んで、送ってきた奴の名前を確認しなきゃならねえ」
「それで、送ってきた子全員に、直接断りに行くんでしょう? 毎年そうじゃないですか。そうやって優しくするから、誰も諦めてくれないんですよ」
「お前だって、全く手紙の数減ってねえだろ。まあ、簡単に焼き捨てちまうバッサリした所が、男共にはウケてるらしいからな」
「え? ……じゃあ何、あたしの今までやってたことって、逆効果だった訳!? ありえなーい!」
 乱菊は両手で両頬を押さえ、喚いた。
「……めんどくせえ」
 ムンクの叫び状態の乱菊に目も向けず、冬獅郎はよたよたしながら椅子に腰掛ける。

「副隊長。私、そろそろ休憩の時間なので……」
「あ、そっか。お疲れ様!」
「有難うございます。……では、失礼します」
 椅子から立ち上がった女隊士は、手紙を大事そうに握っている。
 気になった桃は、尋ねてみた。
「その手紙……どうしたの?」
「え!」
 隊士は、一瞬にして顔を赤く染め上げた。
「あ……そ、その……」
「?」
「……ひ、日番谷隊長を……明日の夏祭りに……お……お誘いしようと思いまして」
バサーッ!
 桃は、手にしていた書類を取り落としてしまった。
「……」
「ふ……っ、副隊長? どうなされたのですか!?」
 執務室を飛び出した桃に、隊士の声は届いていない。

 手紙を読み、送り主の名前を紙に記録する。それを何度繰り返しただろう。たとえ難しい詞ばかりが並ぶ書類でも、そちらに手をつけた方が楽な気がする。
 部屋が蒸し暑いのも有ってか、意識がぼうっとしてきた。その所為で、近付いてくる足音にも、馴染みの有る霊圧にも、気付けなかった。
「隊長、手紙しまって下さい!」
 乱菊の声にも、全く反応出来ない。
「ちょっと、た――」
「失礼します!」
 襖が開けられ、恐ろしい形相をした桃が現れた。
――間に合わなかった!
 乱菊は本日2度目のムンクの叫び状態に入った。
「……思った通りね」
 数えきれない程の手紙を目の前にしても、桃は全く驚かない。
 しかし、それらを捨てる素振りも無く、便箋をしっかりと握っている冬獅郎を見て、顔を伏せ、霊圧を上昇させる。
 そのおかげで、冬獅郎は漸く桃に気付く。
「……雛森……どうした?」
「捨てないんだ……手紙」
「……は?」
「去年もそうだったの? 一昨年もその前の年も……捨てなかったの?」
「……おい、雛森?」
「……だったら……そんなに大事だったら、無理して私と行かないで、他の子達と一緒に行けば良かったのに!」
 桃は顔を上げ、怒鳴った。目には涙が溜まっている。
「……もう良い、今年の夏祭りは一緒に行かない!」
「……お前、何言っ――」
「失礼しました!」
 桃は部屋を飛び出した。
 乱菊は、冬獅郎を憐れんだ目で見る。
「……ついにバレましたね」
「『バレた』?」
「去年までは、隊長が送り主達の所に行ってる間に、あたしが手紙を隠してあげたじゃないですか」
「……毎年毎年……何故か手紙が消えて、不自然だとは思ってたが、てめえの所為か」
 冬獅郎に睨まれ、乱菊は溜息を吐く。
「……雛森に見つかったら今みたいなことになっちゃうからでしょう」
「そ、そうか……だが、雛森が怒ってたのは何故だ」
「……雛森以上の鈍感が此処に居たわ」
 乱菊は再び溜息を吐いた。
「……雛森は嫉妬したんですよ」

「……後で吉良君の所に行こ」
 十番隊舎の屋根の上。体育座りをしながら、呟いた。
「……手紙の返事もしなきゃいけないし……」
 懐から、1通の手紙を取り出した。イヅルから送られたものである。
「え……」
 突然、誰かの手が伸びてきたかと思えば、手紙を抜き取られた。
「……ふうん……吉良からか」
 背後から聞こえた声は、先程自分が怒った相手のものだ。
「……何しに来たの?」
 桃は振り返りもせず、低い声で尋ねた。
「……吉良に返事しとけ。『一緒に行こう』ってな」
 予想していなかった答えが返ってきて、思わず振り返ってしまった。冬獅郎の顔を見ると、ふざけて言ったのではないと分かる。
「俺も、俺に手紙送ってきた奴、全員と行くことにしたから」
「なっ!? ……さ……っ最低!」
「俺にとっては最高の選択だぜ。お前にとってもな」
「え……?」
 首を傾げると、ニヤリと笑みを浮かべられた。
「……お前と吉良も、俺達と一緒に行くんだ。それで見せ付けてやるんだよ」
「な、何を……?」
「……女子共と吉良に、俺と雛森の愛の深さってやつを、な」
「……っ!」
 茹で蛸状態になった桃の頭をクシャクシャと撫でて、続ける。
「目の前でそれを見たら……、来年は1通も手紙が来なくなるかもしれねえしな。……どうだ、一石二鳥だろ」
「……もう……馬鹿!」
 桃は悪態を吐き、冬獅郎に抱き付く。顔には、満面の笑みを浮かべて。

 明日の夏祭り、何10人もの被害者が出ることは、言うまでもないだろう。

 桃は執務室に戻った途端、女隊士にギロリと睨まれた。
「副隊長、何処にいらっしゃったのですか!」
「あはは、ごめんね」
「副隊長が出て行った所為で、もうすぐ休憩の時間が終わってしまうじゃないですか! ……日番谷隊長に手紙渡せませんでしたし……」
 泣きそうになりながら呟くと、桃に肩をポンと叩かれた。
「大丈夫、日番谷君にはちゃんと言ってあるよ」
「ほ、本当ですか!? 有難うございます!」
「あと、今から休憩時間ってことにして。元はといえば、私の所為だし」
「は、はい! では失礼します!」
 何とも嬉しそうに部屋を出ていく女隊士。桃は彼女の後ろ姿に、苦笑いしながら頭を下げる。
――貴方にも日番谷君のこと、諦めてもらわなきゃいけないの。
「……早く仕事終わらせて、吉良君の所に行かなきゃ!」
 腕まくりをし、意気込む桃であった。




End


あきゅろす。
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