People who request light
 乱菊はドアの目の前まで来ると、ふ、と小さく息を吐いた。
 そして、ドアの奥に、声を掛ける。
「……居ますよね、隊長。入っても良いですか?」
 問い掛けると、返事の代わりにガラリとドアが開いた。そして、上司が現れた。
「……雛森は……?」
 乱菊が怖ず怖ずと尋ねると、冬獅郎は首を横に振った。
「未だ、寝たきりだ」
「……そうですか……」
 乱菊は俯いた。
「……最低だ」
 出し抜けに、冬獅郎がそんなことを言った。
「……俺は強い言葉を使っていただけで、あいつに何もしてやれなかった……」
 冬獅郎は拳を震わせ、苦しそうに眉根を寄せる。


「あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるぞ」


 何時か聞いた冷たい言葉に、ああ、その通りだと、思うしかなかった。
「……隊長……」
 乱菊の声で、我に返る。
「ああ、すまない……」
「……隊長」
「俺は……隊舎に戻る」
 冬獅郎は足音1つ立てずに、その場から去った。

 乱菊は、病室にゆっくりと、足を踏み入れた。
 ピッ、ピッと、心電図の小さな音がする。その音が、あまりにも痛々しく感じた。
「……お早う、雛森」
 乱菊は、ベッドに横たわる桃に、そっと声を掛けた。
 そしてそれから、黙った。返ってくる筈の無い返事を、待っているかの様に。


「市丸ギン。宜しゅうな」


 冷たい笑みを浮かべた青年が、乱菊の頭を過る。


「さいなら、乱菊。……ごめんな」


 初めてだった。あんなに、優しい顔を見たのは。
 乱菊の光は、最後だけ、優しく光った。
 そして、消えたのだ。
「……」
 乱菊は、桃の傍に歩み寄った。
「……あんたは、消えちゃ駄目」
ピッ
ピッ
「隊長を、あたしと同じ気持ちにさせないで」
ピッ
ピッ
「……あんたは、隊長の光なんだから」
 乱菊がそう言った直後、桃の身体が、微かに動いた。
 乱菊は、直ぐ様、桃の顔を見た。
 眠っているその顔が、笑っている様に見えるのは、乱菊の気のせいだろうか。
 乱菊は桃の白魚の様な手を強く握り、そっと離すと、踵を返した。
「……ひつ……がや、君……」
 ドアに手を掛けた直後、小さな声が聞こえた。
「……お休み」
 乱菊は微笑み、静かにドアを閉めた。

 乱菊は心の中で祈った。隊長が雛森の前から消えませんように、と。桃が冬獅郎の光であるのと同じ様に、冬獅郎は、桃の光なのだから。
「よし、修兵と飲みに行くか! あ、京楽隊長も誘おっかなー」
 乱菊の楽しげな声を聞いた四番隊員は、この後、十番隊舎に冬獅郎の怒声が響くことを予想し、合掌した。
「松本副隊長、どうかご無事で」




End


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