6月17日
 背後から伸びてきた腕が、腹の上で交差した。ルキアは、顔をしかめた。
「……離せ。暑苦しい」
「やだ」
 一護は即答した。
「……はあああ」
 ルキアは、大袈裟に溜息を吐いた。抱き締められるのは、嫌いじゃない。しかし、今の状態では、漫画の続きが読めない。
「邪魔をするな。今、良い所なのに……」
「……」
「あ!」
 一護はルキアから漫画を奪い取り、自分の机へ放り投げた。
「何をする!」
「後で読めば良いだろ」
「貴様……」
「……ルキアー」
 一護は、甘ったるい声でルキアを呼び、首元に顔を埋めた。
「くすぐったい……止めろ」
「ルキアー」
「……」
 自分に擦り寄ってくる少年が、猫の様だと、子猫の様に愛くるしいと、思ってしまった。
 重症な自身に苦笑いしながら、橙色のフサフサした髪をそっと撫でる。
「ん……」
 一護は、気持ち良さそうに目を細めた。
「……仕方、無い」
 ルキアは呟いて、一護の背中に腕をまわした。

 一護から、微かに線香の匂いがする。
 ルキアは横目で時計を見た。
 12時だった。真咲の墓参りから帰ってきて、未だ1時間しか経っていなかった。
 ルキアは確信した。一護は寂しいのだ、と。


「おかげで、やっと雨は止みそうだ」


 そう言ったときの一護の顔は、初めて会ったときに比べ、凛々しかった。太陽の如く、眩しかった。
 だが、いなくなってしまったものが残す穴は、とてつもなく大きい。時が経つにつれ、穴は小さくなるが、完全に消えることは無い。
 一護は、今日だけでも、弱みを見せたかったのだろう。
「……特別だ。言いたいことが有るのなら、言って良いぞ」
「……寂しい」
 一護は消え入りそうな声を出した。
「……キスしても、良い?」
「ああ」
 ルキアは微笑み、一護にそっと口付けた。
「……もっと」
「随分と甘えん坊だな」
「良いんだろ、……我儘言っても」
 一護は悲しそうな目で、ルキアを見上げる。
 何時もと雰囲気の違う彼に動揺しつつ、ルキアは、腕に力を込めた。
「ん……ルキア」
「好きなだけ甘えろ」
 ルキアはぶっきら棒に言うと、再び一護に口付けた。

「お兄ちゃーん、夏梨ちゃーん、ルキアちゃーん、御飯だよーっ」
 遊子は階段の下まで来ると、2階に向かって声を掛けた。
「分かった、今行くー!」
 夏梨も大声を出し、部屋から出た。
「あれ……一兄達、出てこないな」
 夏梨は首を傾げ、兄の部屋へ入った。
「ねえ、御飯だって……さ……」
「おーい、3人共ー」
 遊子の声に夏梨はハッとし、階段を掛け降りる。
「あれ、お兄ちゃん達は?」
「寝てた」
「え、起こした方が良いかな? 御飯、冷めちゃうし……」
「そっとしといてあげなよ」
「……うん」
 夏梨の柔らかな表情を見て、遊子は素直に頷いた。
「じゃあ、2人の分はラップしなきゃ」
 遊子はエプロンを翻し、台所へ戻った。
「……」
 夏梨は振り返り、2階を見上げた。そして、つい先程見た兄の寝顔を、思い出した。
 兄は数年前まで、母の隣で寝ていた。先程はルキアの隣で寝ていたけれど、寝顔は昔と変わっていなかった。幸せそうな、顔だった。
「……有難うね、……ルキ姉」
「夏梨ちゃん、今何か言った?」
「ん? ああ……腹減ったなーって言ったんだよ」
 振り返った遊子に、夏梨は優しく笑った。




End


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