My whereabouts
 まだ肌寒い3月の風が吹き抜ける屋上の隅に、ルキアは1人立っていた。
「……はー」
 溜息は、今日で3回目。
 今にも泣き出しそうな、顔。
 ルキアは数分程前、他クラスの女子達に絡まれた。それが原因で、落ち込んでしまっている。


「ねえ、朽木さんって、黒崎君とどういう関係?」
「……ただの、お友達ですわ」
「ふうん……なのに、一緒にお昼食べたり、一緒に登下校したりするんだ?」
「……何なんですの? 一体」
「あたし達、黒崎君が好きなの。朽木さんは、黒崎君に恋愛感情無いんでしょ? だったら、彼に馴々しくしないで欲しいんだけど」
「……どうして、そんな事言われなきゃ――」
「言って当たり前でしょ? 本気で、彼の事好きなんだから。大体、自分のやってること、狡いと思わないの?」


 彼女達の言う通り、ルキアは一護の彼女でもないのに、何時も付き纏っていた。
 一護の隣に居れば、安らげる。自分が自分でいられる。だから、“一護の隣”という場所に甘えていた。目障りだと思われるのも、仕方の無い事。
 一護は、自分を仲間だとしか思っていないだろう。こんなに思っているのは、自分だけだ。それを、改めて実感した気がした。
 だからなのだろうか。悔しくて、苦しくて、悲しくて、胸が締め付けられそうだ。

 ギイ、と不気味な音がした。扉の音だ。ルキアはビクリと肩を震わせ、恐る恐る振り返った。
 ルキアは目を見開く。一護が、何時にも増して眉間に皺を寄せ、こちらを睨み付けているのだ。
「……ルキ――」
「何をしに来た!」
 言いながら、ルキアは一護を睨む。
 睨まれた本人は、呆れた様に答えた。
「……お前と昼飯食う為に決まってんだろ。ていうか、勝手に居なくなんなよ。探したんだからな」
「……別に……私と一緒でなくても良いではないか」
「は? 何だよ、可愛げのねー奴」
「可愛くなくて、結構だ」
 ルキアの声が、だんだん擦れて聞こえる。一護は心配になり、ルキアに近寄った。
「おい、どうした……」
「来るな!」
 ルキアは後退りした。
 一護の動きは停止する。
「……一緒に居たら……誤解されるではないか」
「……何を」
「隣のクラスの女子達に、言われたのだ……友達なのに、何時も一緒に居るのかと」
 ルキアの目から、涙が溢れた。
「貴様の事は、好きだ……だが、それは1人の仲間としてであって……だから、貴様をちゃんと好きでいてくれる者と、居た方が……」
 勝手に唇が動き出し、嘘を伝える。


「ただのお友達ですわ」
違う、私は……
「朽木さんは、黒崎君に恋愛感情無いんでしょ?」
違う、私だって……
「あたし達、黒崎君が好きなの」
私だって……


 脳裏に浮かぶ光景を掻き消そうとするも、ルキアは、もう涙を止められなかった。
「……一護……私は、本当は」
「ルキア」
 一護は、ルキアをそっと抱き締めた。
 暖かく、優しい匂いが、ルキアの鼻を擽る。
「! は、なせ……」
 口ではそう言っているものの、一護のシャツをギュッと握り締めるルキア。
 一護はルキアの耳元に唇を近付け、囁く様に言った。
「俺は何言われようが、……お前の側に居たい」
「……それは、仲間だからであろう……?」
「好きな奴の隣に居たいって思うのは、駄目か?」
 その言葉は、ルキアの思考回路を、一時停止させた。
 その隙に、一護はルキアの白い頬に口付けを落とす。
「な! き、貴様、今……」
 ルキアの顔は、一瞬で真っ赤になった。
 一護は全く気にしていないようで、ルキアに問い掛ける。
「『仲間として』好きっていうのは、嘘だろ? 俺の事、ちゃんと好きだから……泣いてるんだろ?」
「……自惚れておるな、貴様……」
 ルキアが悪態を吐くと、一護は悪戯っぽく笑って、言った。
「そんなこと言うなら、ルキアが俺のこと好きって言うまで、キスしてやる」
「……そうか。だったら、絶対に言わない」
「……へ?」
 今度は、ルキアが悪戯っぽく笑った。
「好きな相手にキスをされて、嫌がる奴が何処におるというのだ?」
 ルキアの発言に、一護まで顔を真っ赤にした。
 照れ隠しに「ばぁか」と言って、ルキアにキスの雨を降らせる。

 そんな2人の様子を、屋上の入口から、こっそり覗いている者がいた。先程ルキアに絡んだ女子達だ。
 事情聴取したものの、まだルキアを信用出来なかったらしく、こっそり後を付けていたのだ。
「ちょっと、見てるこっちが恥ずかしいんですけど」
「何が『ただのお友達ですわ』よ……朽木さんだって、黒崎君が……」
「ねー、黒崎君のこと、もう諦めない?」
「は!? 何で!」
「……だってさあ……。あの2人の間に入り込める人なんて、1人も居ないと思うよ――」

 唇が離れ、視線が絡まる。恥ずかしくて、2人はすぐに下を向いたが、やがてルキアが口を開いた。
「……一護」
「……ん?」
 ずっと昔から知っていたが、自分は意地っ張りで、ちっとも素直じゃない。だから真っ直ぐ“好き”と言えるのには、時間がかかると思う。
 けれど、これだけは、今直ぐに伝えたい。
「貴様の隣が、私の、大好きな場所だ」
 ルキアは勇気を振り絞り、笑顔で言った。




End


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