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RAPTORS
13
 門から出ると、間近に見る軍隊の迫力にまず圧倒される。
「すっげ…」
 これが実父の率いる軍隊なのだ。
 まだ顔すら知らないのに、勝手に誇らしく思って、黒鷹は再び駆け出した。
 だんだんと距離が埋まる。
 今はもう旗の大きさも紋様もはっきり分かる。
 東軍の印――あの旗の下に。
 軍の先頭にやっと出会えた。
「進軍ご苦労!董凱殿はおられるか!?私は王の黒鷹だ!!」
 ありったけの声を出して、軍の全員に向かって叫ぶ。
 軍の歩みが止まった。
 しばらくして、一人の男が出てきた。
 無精髭の生えた、長い黒髪の、背の低い男。
 服はかなり着古しているようだ。
「進軍ご苦労。董凱殿にお会いしたい」
 握手をしながら黒鷹はその男に言った。
「分かりました。董凱どのぉ〜!地の王がお呼びだぁ!!」
 男は自分の後ろに向かって叫んだ。
「貴方は軍師か何か偉い人なのか?」
「ええ、まぁそんなとこです。とーがいどのぉ〜!!出て来いよ、ったく」
 男がいくら呼んでも董凱は出てこない。
「後ろの方に居るのかな」
 言って黒鷹も人の向こうを眺めた。
 …ふと。
 “似てますよね?背丈とか”縷紅の言葉が頭を過ぎる。
 …背丈?
 認めたくはないが、自分の背は低い。
 そして目の前の…
「っあーーーー!!!!」
 思いきり指差して叫ぶ。失礼極まりない。
 そんな黒鷹を目の前にして、董凱は。
「誰かツッコんでくれよぉ。続けるのしんどいだろうが」
 周りの兵にダメ出ししていた。
「ちちうえぇぇ!!お会いしとうございました!!」
「俺もだ」
 思いきり飛びついて首に腕を回す。
 普通の親子ならこのままぐるぐる回って娘は浮いている感動の再会。
 しかしこの親子は。
「…もしかして」
「え?」
 突然引き剥がされて、しゃんと立たせ、自分の頭の高さから手を…
「同じ!?」
「へ?」
「ちょ、ちょ、ちょ、後ろ向け、後ろ!」
 言われるがままに後ろを向き。
「おい縷紅、見てくれ」
 近くに居た縷紅を呼び寄せ。
 自分も後ろを向き、背を合わせる。
 縷紅が二人を見やった。
「ああ、際どいですね…」
「うっそ」
「あ、でも董凱の方がちょっと高いですね。髪結ってるのと厚底の分だけ」
「あー良かっ…ねぇよ」
 冷静に考えれば、実際の背は。
「それって俺の方が高くないって事だろ!?子に負けるとは…」
 あくまで「低い」という言葉は使わない。
 本気で落ち込む董凱に、弟子は優しく声をかける。
「それは我が子が成長し大きくなったという証ですよ。良い事じゃありませんか」
「…お前に、背の高いお前に何が分かる…」
 しゃがんで縮こまって更に小さくなっている。
「ビョーキだ」
 第三者である隼達はそう言う。
 そして横から、旦毘がひょいと覗いた。
「まっ、母の血もあるからなぁ。そう気を落としんさんな、とおがいっ」
 ふと気付いて黒鷹は旦毘に問う。
「俺の母親ってどんな人?」
「ん?今は東軍の街に居るよ。そりゃあ街一番の美人でさぁ、背もすらっとして、それをこの親父が無理矢理…」
「たんびぃっっ!!!」
 叫んですっと立ち上がる。
「子供に変な事を吹き込むな」
「何を想像したのさアンタは。俺はただ、“縷紅のお守りに抜擢して出会ったんだ”って言おうとしたんだけど」
「……」
「あっれぇ?思わぬ墓穴掘っちゃったぁ?」
 親子の間を吹き抜ける寒い風。
「…旦毘、あっち行ってろ」
「一番弟子を追い出しますか」
「うるせぇ!!俺の一番弟子は縷紅だ!!っていうかせめて黙っててくれ!!頼むから!!」
「…私が一番弟子なんて初めて聞きましたねぇ…」
「うわあぁぁん、弟子たちがいじめるう…!!」
「なっさけねぇ父親…」
 ぽかーんとしていた黒鷹は、縷紅の袖を引っ張った。
「ねぇねぇ、俺って嫌われてる…?」
 これには彼も苦笑した。
「そんな事無いですよ。邪魔が過ぎましたね」
 全くだ。
「あのさ…」
 無駄なやり取りを繰り広げる彼らの後ろで、見物していた鶸が隼にそっと口を開いた。
「アイツが女だったって、本当?」
 それを聞いた、同じく見物人の茘枝が、やや驚き気味に聞き返す。
「え!?気付いてなかったの!?」
「な…!?だって、隼は!?」
「どっちでもいい」
 超棒読み。
「え!?よくねぇだろ…」
「っつーか、変わらねぇだろ。元々なよっちい女みてぇな奴なんだから。今更女だって言われても痛くも痒くもねぇよ」
「…はぁ」
「奴は奴で間違いないだろ。バカでマヌケで剣だけ使える俺達の王だ」



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あきゅろす。
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