RAPTORS
5
地では鶸と栄魅が茘枝率いる地の民に合流していた。
そして文句の言いたい放題。
「俺が一生けんめー説得して止めたのによぉ、なーんも分かっちゃいねぇんだよアイツはぁ」
「全くよ。始めは自分が行くなって言ってたのにさぁ。ワガママにも程があるわ」
「一番自分の立場分かってねぇっつーの。どーせ行くなら俺も連れて行けば良かったのに、一人で突っ走りやがって」
誰の文句かは…言うまでも無い。
「ほんっと、少しは自重してもらいたいものね!」
「でも、仕方ないんじゃない?」
見るに見かねて栄魅がフォローに入る。
「あなた達が黒鷹の立場なら、同じことしたんじゃないの?」
自分が背中を押してしまった後ろめたさも否めない。露呈した事ではないが、実は自分へのフォローでもある。
だが、彼らはそんな事知る由も無く、気にする由も無い。
「いーや、大人しくしてたね」
「私は慎重ってコトバを知ってますから」
異口同音に反論されて、栄魅は気まずく萎縮する。
「とにかく…二人が無事に帰って来る事を祈ろうよ」
「家内安全、無常息災、ナムアミダブツ」
「アーメン、ラーメン、ソーメン、腹減った〜」
「…」
ますます立場の無くなる栄魅。
「それよりもさぁ、私迎えに行って来るわ」
早くも祈願(?)に飽きた茘枝が、すっくと立ち上がる。
「よく考えたら、黒ちゃんが隼を持って帰れるワケ無いじゃん」
「そうだな。アイツちびぃし」
「アンタもそう変わらないけど…。とにかく行って来るわ。何で今まで気付かなかったんだろ」
「俺も行くよぉ。今度はじっとしておいてやらないからな!」
「…いいの?二人とも行っちゃって。てゆーか“慎重”の二文字はドコに行ったの?」
「それとこれとは別モノ。あと、鶸は残して行きます」
「何でだよっ!?また俺置いてけぼり〜!?いっつもじゃん!」
「そーゆーキャラなのっ!大人しく留守番してなさい!」
「やだぁっ!ヤダヤダ!!絶対行ってやる!」
「駄々こねてんじゃねぇ!!」
「…恐っ…!」
「キャラ違うよお姉さん…」
すっかり尾を巻いた鶸。
啖呵を切った張本人は、その効果を満足そうに見やった。
「行ってきます」
微笑みながら、そう言い切って歩み出そうとした時。
彼らの居る夜営地がどよめいた。
「…何?」
誰かが事態を叫んで知らせている。
三人は耳を澄ませて、その内容を聞いた。
「…黒鷹が…」
そこまで言って、お互い目を合わし、急に我先にと走り出す。
人の壁を掻き分け、彼らはその姿を認めた。
「手ぶらっ!?」
開口一番、茘枝のセリフ。
「何だよ、天のみやげ物でも期待してたのかよ?」
かなり気分を害して、帰って来た黒鷹が言う。
「期待するわよ、そりゃ。何の為に天まで行ったのか分かんない」
「そうそう。根の国産の天土産はどうなったんだ?」
「取るモノはちゃんと取ってきたっつーの」
肩越しに親指で後ろを指す。
旦毘が隼を背負っている。その横に朋蔓と縷紅。
「縷紅!?」
茘枝が見当違いな方へ叫んで走る。
「心配したのよ!!帰ってきたなら一声かけてよ…もう!」
「…隼は?」
黒鷹と鶸が見当違いな彼女の行動にぼやく。
そしてやっと、彼女は縷紅の横に気付いた。
「…誰?」
旦毘と茘枝がお互いの事を縷紅に訊く。
縷紅は困った笑みを浮べつつ、二人の紹介をした。
「こちらは私の東軍での兄弟子の旦毘。そしてこちらは忍の茘枝です」
「よろしく、茘枝」
旦毘は握手を求めて手を差し出した。
茘枝はそれを握り返しながら言う。
「どーも、ウチの縷紅がお世話になっております」
「ウチ!?」
外野からのツッコミを気にした風も無く、旦毘は一人納得顔。そして。
「みっずくせぇなぁ縷紅。式には呼んでくれれば良かったのに」
「…式?」
縷紅は意味が分からず聞き返す。
「とぼけんなよ、カッワイイ(?)奥さん貰っちゃってぇ」
「おくさん!??」
外野の驚きの声を再びさらりと流す。
茘枝は爽やかに笑って言った。
「私、まだ十九ですよ。奥さんなんてまだ早いわ」
そして爆弾発言。
「まぁ、そのうちそうなるでしょうけど」
「あ、彼女かぁ」
「マジかよっっ!?いつの間に!?」
絶叫する外野に意味深な視線を送り、縷紅に向き直った。
「ねー縷紅」
「…そうなんですか?」
本人の知らぬところで話は進んでいる。
「ちょっとぉ、私とあなたの仲じゃない」
どんな仲だ。
「縷紅、ハッキリ否定しておいた方がいいぞ。お前の人生を棒に振る事になる」
事態を深刻に見た黒鷹が忠告すると。
「ごめんなさい、旦毘。私は茘枝とまだ結婚まではしてないです」
「そこ否定するんかい!」
誤解は深まる一方である。
盛り上がる若者達の背後で、突然咳払いがした。
「そんな事より旦毘、お前の背中の大事な物を忘れてないか?」
しびれを切らした朋蔓が呆れた視線を送る。
それでやっと、旦毘も気付いたようだ。
「あ、そーだ。俺コイツ背負ってる事に慣れたのかなー。一心同体、ってカンジだな」
…隼がこの台詞を聞いていたら、猛反論するだろう。
「とりあえず、中に入りましょう。寝台は用意してあるわ」
茘枝が言って、ようやく彼らは休息を取る事となった。しかし。
「鶸と黒ちゃんは、今晩は床で寝てね」
「ナゼッ!?」
「だってお客さんの分まで用意してなかったもん」
「鶸はともかく、俺はやっと天から帰ってきて疲れてんだぞ!ってゆーか王様なんだぞ!?」
「“鶸はともかく”って何だよ!?お前はこんな時だけ王様ヅラしてんじゃねぇ!!」
反論しあう二人を、茘枝はぎろりと睨みつけた。
「分かったわよ、そんっなに私を床で寝させたいのね?冷え性で悩む女の子を。ひっどい話ねぇ…」
冷え性は本当なのか?
「分かりました。床で寝させて頂きます…」
ねじ伏せられた二人。
が、そこへ思わぬ救いの手が。
「それはいけませんね。私は床でも地面でも構いませんよ?」
二人は希望にきらめく目を縷紅に向ける。
「さっすが縷紅。やっさし〜」
「じゃ、お言葉に甘えて…」
「駄目よ!!それは駄目!!」
決定、となりかけた所を遮る悲鳴。
凍り付く二人。
「あなたを床で寝させるくらいなら、私、あなたの為に一晩腕枕で寝る方がいいわ!!」
「……え?」
きょとんと茘枝を見る縷紅。
「……ん?」
意味を考える鶸。
「……いや待て待て待て」
二人の間に割って入る黒鷹。
「茘枝姉さん、本当の狙いはもしか…」
「ごほん!!」
「……」
あまりにわざとらしい咳にそれ以上何も言えなくなった黒鷹。
もうこうなれば最善策は一つ。
「…いいよ俺らが床で寝ればいいんだろ!?ったくもー!!」
最初から結論は見えていた、という事だが、事の真相にまだ気付かない鶸は巻き込まれて不満たらたらだったりする。
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