RAPTORS
4
「大丈夫か?」
牢から出ると、黒鷹が声をかけてきた。
「ええ。大した傷じゃないですし」
数歩で彼らに歩み寄って、瓶を手渡した。
朋蔓が受け取り、疑わしそうに眺める。
「毒じゃないですよ。急がないと危ない」
蓋を開け、隼の口に注ぎ入れた。
それを見ながら黒鷹が問う。
「元は仲間だったんだろ?…辛い?」
心底から心配している顔に、にこりと縷紅は笑う。
「悔いてはいません。彼女も、きっと」
瓶が空になり、消え入りそうだった隼の呼吸も甦ってきた。
「さーて、さっさと降臨するか」
旦毘が言って、隼を背負って立ち上がる。
残る三人も立ち上がって、足を踏み出した。
しかし、いくらも歩かないうちに、自然と彼らの足は止まった。
通路の向こうから人影が近付いてくる。
四人の間に緊張が走る。
「こーゆー時に限って…」
ごちた旦毘の横で、縷紅が鋭く息を吸った。
「緇宗…」
「よォ、縷紅。久し振りだな。将軍就任式以来か?」
互いが顔を確認できる距離になって、緇宗が片手を挙げた。
「知り合い?」
旦毘の問いに無言で頷いて、縷紅は一歩前へ出た。
「最高司令官御自らこのような所においでになるとは思いませんでした」
言いながら、納めたばかりの剣を抜く。
「俺だって、お前がわざわざまたこんな所に帰ってくるとは思わなかったな」
同じように緇宗も剣を抜いた。
そして。
ガキン!!と、金属と金属のぶつかる音。
だがそれは縷紅の剣ではない。
「ほほう」
感心した声を漏らして、緇宗は下がった。
「縷紅は手負いなれば、私が代わりに相手をしよう」
縷紅を下がらせ、緇宗の前に出たのは、朋蔓。
緇宗は満足そうに笑う。
「確かに、ガキ共じゃ話にならねぇな」
「ガキッ!!?」
縷紅を除く二人の“ガキ”(三人目は昏睡中)から、怒号と悲鳴が混じった声が上がる。縷紅は苦笑い。
「だが、別にネズミ退治に来たわけじゃねぇよ。…手合わせしたいのは山々だがな」
言って、緇宗は牢を潜った。
「…?」
四人が見守る中、彼は姶良の亡骸を抱き上げた。
「珍しくウマの合う部下だったんだけどな…」
低く、緇宗が言った。
そして再び、扉を潜る。
「全く、俺はいい弟子を持ったもんだ…」
視線を縷紅から黒鷹に代えて、続ける。
「若いうちはせいぜいダチを大事にしろよ、地の王さんよ」
困惑した表情を楽しんで、歩き出す。
彼らの横を素通りして、言った。
「戦場で会おう」
やがてその姿は闇の中へ消えた。
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