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RAPTORS

 しゃくりあげていた栄魅がやっと落ち着いて、ぽつぽつと話し始める。
「最初は調子良く戦ってたんだけど――」
 ふと、隼の動きが止まった。
 その顔は、驚きなのか、怖れなのか。
 視線の先には女が立っている。この一隊の司令官だ。
 栄魅は彼の名を呼んだ――が、遅かった。
「斬られて…捕らえられたわ。抵抗したけど、数が多くて…」
 黒鷹は外にあった肉片を思い出した。
 恐らくその時の抵抗によるものだろう。
 鋼糸によって、無残に斬られた痕。
「あの女は“生け捕りに”と言っていた。私も危なかったけど、この人が助けてくれた」
 言って、栄魅は朋蔓を見た。
「――しかし、私の到着が遅かった。駆けつけた時には既に司令官の姿は無かった」
「隼を連れて逃げられたわ。兵も次々と撤退していった…」
 聞き終えて、黒鷹は土の壁を力任せに殴った。
「畜生ッ!」
 叫ぶなり、立ち上がって出口に向かう。
「おい…どうする気だよ!?」
 鶸が慌てて止めに入る。
「行かせたのは俺の責任だ…。今ならまだ間に合うかもしれない。助ける!!」
「待てよ!!俺だって行きてぇけど、闇雲に動いても仕方ねぇぞ!?」
「時間が無ぇんだよ!天に連れて行かれたらお終いだ!!根の人間は天の空気には耐えられない…」
「だからって…お前が動くのはマズイだろ!?」
「お前までそんなくだらねぇ事言うのか!?隼が死ぬかもしれないって時に…。今アイツを助けられるのは俺達だけだ!お前が止めても俺は行く!一人でも!」
「殴らなきゃ分からねぇのか馬鹿王子!お前が行っても意味無ぇよ!こっちの手間が増えるだけだ!」
「てめっ…!!」
 今にも鶸に殴りかかりそうな黒鷹の肩の上に、朋蔓の手が置かれる。
「落ち着け、二人とも」
 二人は我に返って、バツが悪そうに口をつぐむ。
「確かに時間は無い。――しかし今君達が動くべきではない」
「じゃあ、どうすれば…。このまま動かない訳にはいかない…」
 黒鷹が弱々しく呟く。
「私が東軍に早馬を出そう。天の入国口を見張らせ、発見次第救出する」
「…もう天に入っていたら?」
「私が東軍の精鋭部隊と共に城内を捜そう」
 黒鷹は頷いたが、力無くその場に蹲った。
「隼が天でどれだけ生きていられるか分からない…。城で見つかったとしても、手遅れかも知れない…」
 額に手をやり、項垂れる。
「俺が止めていれば…」
「黒鷹…」
 栄魅が肩に手を当て、慰めようとするが言葉が出ない。
 と、鶸が足を踏み鳴らして怒鳴った。
「隼は死なねぇ!!死なせねぇ!!」
 鶸の手が黒鷹の顔を上に向ける。
「アイツは死なねぇっつったんだろうが!!生きるって言ったんだろ!?信じろよ、その言葉を!後悔してる場合じゃない!!」
「…そうだな」
 黒鷹は頷く。
「お前の言う通りだ。悪かった」
「別に、謝る事じゃねぇよ」
 鶸は照れたように返す。
 それに微笑して、黒鷹は立つ。
「隼を助けて下さい。お願いします」
 朋蔓に深く頭を下げた。
「必ず」
 朋蔓も力強く頷いて応じる。
「それにしても、その隼という人はよほど大切な家臣なのだな」
「違う――」
 黒鷹はきっぱりと言った。
「親友だよ」



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