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RAPTORS

 草原に闇と細い月明かりが下りている。
 夜――草の中で眠る栄魅を横に、隼は番をしていた。
 細く降りる月明かりに、過去の記憶を重ね合わせながら。
 あの夜――彼女を救う事は愚か、己の身を守る事さえ出来なかったあの夜でさえ、過去と思えば一夜の夢と変わりない。
 何度もあれは夢だったと己に言い聞かせてきた。でも、忘れられない。
 怒りが、虚しさが、込み上げて。
 それは憎しみという、自分でもどうしようも出来ない大きな負の感情となった。
 ――俺は彼女の為…否、自分のこの憎しみを少しでも消したい、和らげたいが為に、皆を使って戦を仕掛けたんだ。
 知らず、自嘲して。
 ――最悪だな。
 己が欲得の為、権力を奪い、民を使い、戦をする。
 蛙の子は蛙という事だ。あの母親と同じ事を、俺はしていた――
 溜息。憔悴し切った眼を、遠くに投げる。
「クロ…逃げろ…」
 天の軍勢からだけではない。
 無意識に己の復讐に利用しようとする、隼自身から。
 出来るだけ遠くに行って欲しい、と。
 彼は立ち上がった。
 何か異質の気配を感じて。
 足元で眠っている栄魅を軽く蹴る。
「何すんの…」
 乱暴な起こされ方に当然、不機嫌な栄魅。
「いつまでも寝てんじゃねぇよ。待ち人がおいでになった」
「敵?でもどこに…」
 やがて気配は微かな音となった。
「――騎馬隊か」
 低く、隼は言った。
「隼…剣は?」
 武器など何も持っていないように見える。
「ここにある」
 右手を差し出す。
「…無いじゃん」
 装飾のなされた黒いグローブを付けてはいるが、武器には思えない。
 と、突然栄魅の目の前にあった草の先が切れた。
「――鋼糸だ。“霧雨”という」
「いつの間にそんなものを…」
「出立前に黒鷹がくれた。王家の宝らしい」
 顔色一つ変えず、淡々と喋る。
「宝…て、いいの!?そんな易々と貰ったりして」
「宝以前に武器だからな」
「…ああ、そう」
 彼らにとっては、宝としての価値など一文も無いらしい。
 草原の彼方に、黒い塊が見えた。



 暗く細く長い一本道をどれだけ走ったか。
 ようやく終点が見えた。
「あと少しだ鶸!あの階段を昇れば地上に出られる!」
「俺もぉ限界ぃぃ〜…」
「じゃ、ここで待っておくか?」
「冗談じゃねぇ!…でも上はもう終わってないか?」
「確かにミョーに静かだ」
「終わってたら走り損じゃんよ!どーしてくれるんだお前!」
「俺に言われても困るって…。とにかく行かなきゃ分かんねぇだろ」
 薄暗い階段を昇り、扉を押し上げた。
 刀を抜いて勢い良く飛び出す。
 ――しかし、人の気配は全く無い。
「うぁ〜!やっぱり走り損だった〜!!」
 悔し紛れの悲鳴をあげる鶸をよそに、黒鷹は二、三歩んで止まった。
 屍――と言うより肉片に近い。
 天の兵のものだ。
 黒鷹は顔をしかめつつ、それを見渡した。
 肉片となっているのはその付近だけで、あとは切り傷のある死体だ。
「この辺でだいぶ余裕の無い戦い方してやがる…」
 嫌な予感。
「――隼は?」
 当の隼の姿は無い。
 …何かあったのか。ここで。
 そう考えてかぶりを振った。
「探してみよう」
 言った時だった。
 足音に気付いて、二人は身構えつつ振り返る。
 構えた刀は、やがて下ろされた。
 近付いて来たのは二人。
 一人は彼らの見知った顔。
「…栄魅?」
 足を引きずっている。
黒鷹が駆け寄った。
「大丈夫か!?どうしてここに…」
 右足に鋭い傷がある。そのせいか、表情は固い。
「隼が…」
 言いかけて彼女は、止められず泣き崩れた。
「おい!?どうしたんだよ!?」
 一方、鶸はもう一人の人物に目を向けた。
「アンタは?」
 その男は一礼して名乗る。
「私は東軍の朋蔓という者です。縷紅の代わりに助太刀に参りました」
「縷紅!?アイツ今何やってんだ!?ここを出てもう二週間も帰ってない…」
「実は――天の間者に襲撃されて…」
「ええっ!?」
 黒鷹と鶸の驚愕の声が重なる。
「と、とにかく地下で話そう。隼の事が先だ」
 狼狽しながらも、黒鷹はそう言って立ち上がった。





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あきゅろす。
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