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RAPTORS

「ふっざけんなよ!!」
 人気の無い通路で、二人は隼に食い掛かった。
「誰もふざけてねぇよ。俺は本気だ」
「お前、本気で一人で抑えられると思ってんのか!?シャレにならねぇぞ!」
「だから、ナメんなっつってんの」
 胸倉も掴む勢いの鶸の手を払いのけて、隼は再び歩きだした。
 その背中を見て、黒鷹が問う。
「お前…死ぬ気じゃねぇだろうな」
 鶸が驚いて黒鷹を振り返り、隼を見る。
 隼は振り返らない。
「…犠牲無しで事が成せると思ってんのか?」
「思ってねぇよ!!俺はずっとそれを悩んで…」
「ここを犠牲も無く通れるとは思えない。…なら最小限に止めるまでだ。時間は稼ぐ。それは保証する」
「何でだよ」
「…何が」
「何でお前が犠牲になるんだよ…どうして生きられる道を選らばねぇんだよ!?何でだよ!?」
 黒鷹の叫びにも動じず、隼は落ち着きを払って言った。
「他に居ないからだ。犠牲になっていいヤツなんて」
「お前もだろ!?」
「…縷紅が居ればまだ勝機もあったかもな」
 小さく、隼は呟いたが、言ったそばから後悔していた。
 …あんなヤツの手は借りたくねぇ。
「一人で戦って死ぬなんて…そんなのお前のワガママだからな隼!!」
 この言葉には、流石に立ち止まり振り向いた。
「お前のが全ッ然ワガママだ黒鷹!!」
「はぁ!?」
「てめぇは王族だろうが!!戦う事も死ぬ事も…こんな風に私情に任せる事も、許されねぇんだよお前は!」
「――!」
「少なくともそれが民の思う事だ!忘れるな!」
「…今更そんな事言うなよ…。ずっと一緒に戦ってきたのに」
「今は違う」
「だからさぁ…」
 おずおずと鶸が口を挟む。
「いいじゃん、二人ともワガママって事で…」
「全然良くない!!」
 断固として二人が口を揃えた。
 ワガママを認めたところで、当然解決にはならない。
 一つ息を吐いて隼は言った。
「王子サマよぉ、お前戦の度にそうやって騒ぐつもりか?」
「…何だよ、それ…」
「戦に犠牲は付き物だ。いい加減それを受け入れろ。もう後戻りなんざ出来ねぇんだから。王はそんな事に気を止めてちゃいけない。…悔やむのは、後だ」
「……」
 黒鷹は唇を噛んだ。
 隼は再び背を向ける。
「頼むよ、王サマ」
 遠ざかっていく足音が、痛い。
 鶸が肩をつつく。
 彼の言いたい事は分かっている。
 それでも黒鷹は無視をして、背中の消えた闇を見つめていた。
「追えよ、お前」
 ついに我慢が切れて鶸は言葉に出す。
 黒鷹は唇を噛んだまま、微動だにしなかった。
「クロ!」
「お前は行けるのかよ…」
 虚空を睨んで呟く。
「お前は言えるのかよ…!?隼に、お前以外の誰かを犠牲にするから生きろ、って!!」
「……」
 鶸はいっぱいに目を見開いて、親友の険しい横顔を見詰めた。
「そういう事なんだ…。俺達がしようとしている事は…」
 黒鷹は一瞬自嘲を浮かべ、再び悩ましい表情に戻った。
「所詮、俺達は王族だ。戦う事も、誰かを守る事も出来ない王族なんだ」
 がっくりと肩を落として踵を返す。
 鶸は首を横に振って、それに見合う言葉を探したが、何も思い浮かばなかった。
「なぁ」
 掛けた言葉は空を掠め、消えた。
 最早手を出す気にはならなかった。
「隼は…いいのかよ、どうなっても…」
 何か言わなければと出した声は、先刻程の気勢は無い。
 隼が去った方とは反対側に、黒鷹はとぼとぼと歩いてゆく。
「何の為に俺達…」
 鶸の声は途中で消え入った。
 何の為に、強くなりたいと願って。
 強くなったと思っている――なのに。
 大事な友を一人、守る事すら出来ない程、本当は弱いのか。
「なんで…」
 鶸は独り、立ち尽くしていた。




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