RAPTORS
1
阿鹿が慌てふためいて基地に駆け込んだのは、縷紅が発って十日目だった。
「どした?カタブツ」
こんな様子の阿鹿を見るのは初めてだ。
“まぁどーせカタブツだし…”と、黒鷹はタカをくくっていた。
「申し訳ございません!!」
急にひれ伏して平謝りの阿鹿。これには黒鷹のみならず、鶸や隼も驚く。
「何だよ?何があったんだ?」
「じっ、じっ、実は…その……天の者にっ、見つかって、しまいました…!」
冷や汗をたらたら流しながら彼は言った。
その冷や汗が、自分への畏れと気付かない黒鷹は、素直に心配の表情を浮かべた。
「えっ!?大丈夫かよ!?怪我は?」
「いえ、それが…剣を突きつけられまして…」
「もしかして…」
「この場所を…言ってしまいました…!」
「やっぱりか…」
「スミマセン!!申し訳ございません!!かくなる上は私の首でご勘弁をぉぉ!!」
「いや、お前の首とか要らないし。大体、お前に命懸けの秘密厳守なんざ望まねぇよ」
何気にヒドイ。
「しかし、これで天が攻めてくる事は免れない。…王子、早々に備えなければ」
隼が席を立つ。
「おぅよ。いよいよ戦じゃねぇか。丁度良かった、モグラ暮らしじゃ体ナマってさぁ〜」
鶸も席を立って、背伸びをする。
「いや…戦はまだ早い」
隼が言った。
「えっ…何で!?天が攻めて来るんだろ!?」
「物資が全く足りていません。人手もです。今はまだ温存すべき時。正面から戦えば勝ち目がありません」
「じゃあどうするんだよ!?」
「…王子、この地下通路に逃げ道は?」
「ある。三界山の麓に通じている」
「ちょい待てよ…逃げるのか!?」
「今は我慢しろ鶸。戦うのは俺達だけだ」
「…なら、いいけどよぉ」
「いえ、お二方にも民と共に逃げて頂きたい。民を先導する方が必要です」
「ちょい待てッ!!」
今度は二人からストップがかかる。
「俺はここに来た時から戦うつもりだったんだよ!!逃げる気は無い!!」
「そうだよ!大体逃げるだけじゃすぐ捕まっちまうじゃん!!」
「全員が逃げる訳ではありません。足止めは必要です」
「俺が…」
鶸が自らを指差す。
隼はゆるく首を横に振った。
「貴方様には少し自重して頂きたい」
「じゃあ、誰が…」
「私、一人で」
「待てっつーの!!」
再び二人して叫ぶ。
「それこそ無茶だ!!敵がどれだけ来るか分からねぇけど、生易しい数じゃねぇぞ!?そんなの一人で相手したら、お前…」
「数の問題ではありません」
叫ぶ黒鷹を、隼は冷たくはらってのけた。
「あまり私を嘗めないで頂きたい。足止め程度ならできます」
「でも、一人で…」
「戦力は今減らすべきではない。…異存はありませんね、阿鹿殿」
「ああ、無い…無いが…」
隼は頷いて一礼し、その場を去った。
何か言いたげだった黒鷹と鶸は、たまらずその後を追った。
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