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RAPTORS

 阿鹿が慌てふためいて基地に駆け込んだのは、縷紅が発って十日目だった。
「どした?カタブツ」
 こんな様子の阿鹿を見るのは初めてだ。
 “まぁどーせカタブツだし…”と、黒鷹はタカをくくっていた。
「申し訳ございません!!」
 急にひれ伏して平謝りの阿鹿。これには黒鷹のみならず、鶸や隼も驚く。
「何だよ?何があったんだ?」
「じっ、じっ、実は…その……天の者にっ、見つかって、しまいました…!」
 冷や汗をたらたら流しながら彼は言った。
 その冷や汗が、自分への畏れと気付かない黒鷹は、素直に心配の表情を浮かべた。
「えっ!?大丈夫かよ!?怪我は?」
「いえ、それが…剣を突きつけられまして…」
「もしかして…」
「この場所を…言ってしまいました…!」
「やっぱりか…」
「スミマセン!!申し訳ございません!!かくなる上は私の首でご勘弁をぉぉ!!」
「いや、お前の首とか要らないし。大体、お前に命懸けの秘密厳守なんざ望まねぇよ」
 何気にヒドイ。
「しかし、これで天が攻めてくる事は免れない。…王子、早々に備えなければ」
 隼が席を立つ。
「おぅよ。いよいよ戦じゃねぇか。丁度良かった、モグラ暮らしじゃ体ナマってさぁ〜」
 鶸も席を立って、背伸びをする。
「いや…戦はまだ早い」
 隼が言った。
「えっ…何で!?天が攻めて来るんだろ!?」
「物資が全く足りていません。人手もです。今はまだ温存すべき時。正面から戦えば勝ち目がありません」
「じゃあどうするんだよ!?」
「…王子、この地下通路に逃げ道は?」
「ある。三界山の麓に通じている」
「ちょい待てよ…逃げるのか!?」
「今は我慢しろ鶸。戦うのは俺達だけだ」
「…なら、いいけどよぉ」
「いえ、お二方にも民と共に逃げて頂きたい。民を先導する方が必要です」
「ちょい待てッ!!」
 今度は二人からストップがかかる。
「俺はここに来た時から戦うつもりだったんだよ!!逃げる気は無い!!」
「そうだよ!大体逃げるだけじゃすぐ捕まっちまうじゃん!!」
「全員が逃げる訳ではありません。足止めは必要です」
「俺が…」
 鶸が自らを指差す。
 隼はゆるく首を横に振った。
「貴方様には少し自重して頂きたい」
「じゃあ、誰が…」
「私、一人で」
「待てっつーの!!」
 再び二人して叫ぶ。
「それこそ無茶だ!!敵がどれだけ来るか分からねぇけど、生易しい数じゃねぇぞ!?そんなの一人で相手したら、お前…」
「数の問題ではありません」
 叫ぶ黒鷹を、隼は冷たくはらってのけた。
「あまり私を嘗めないで頂きたい。足止め程度ならできます」
「でも、一人で…」
「戦力は今減らすべきではない。…異存はありませんね、阿鹿殿」
「ああ、無い…無いが…」
 隼は頷いて一礼し、その場を去った。
 何か言いたげだった黒鷹と鶸は、たまらずその後を追った。




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