RAPTORS 6 「私が東軍に反感を持っていたのも事実なんですよ。戦をする意味が理解できなくて」 独白するように縷紅は言う。 「私に東軍の――地の人々の気持ちなんて理解できる訳が無いんです。天から受けた苦痛なんて。歴史だって知ったフリは出来るけど、実感する事など不可能…」 朋蔓は黙って聞いている。 「私は天の人間である事を、軍に入って強烈に感じていました。東軍で育ったとは言え、天と地には埋められない溝があると。だから私は自分を偽らず天の人間でありたいと思うんです。天の国に尽くしたい。祖国が好きだから。…その為にこの国を変えたい。地の力を借りてでも」 奪い、従わせるこの国を変えたい。天に見合った気高い精神に。 「…分かって、頂けますか?」 最後に不安そうに朋蔓に訊いた。 彼は一度だけ深く頷いた。そして笑う。 「相変わらずワガママな奴だな」 「スミマセン…。高望みだけは得意なので…」 「全くだ」 「…しかし、透錐はまだ東軍に?」 「ああ。居る」 再び真顔に戻った朋蔓は、縷紅の不安を見通したようだ。 「だからと言って私はお前が東軍を崩しに来た間者だとは思わない。実を言うと透錐のスパイ疑惑は以前からあった」 「彼は軍のスパイでは無かった。軍の上司は誰一人彼を知る者は居なかった…」 「では誰が放ったスパイだと?」 「―-国王。恐らくは…」 「王直属と?」 「私の調査にも限界があったのでハッキリした事は言えませんが。しかしそれ以外に考えられない」 「…しかし、何故…。普通そんな仕事は軍だろう」 「そういう男なんですよ」 ぽつりと、縷紅は言った。 「そういう?」 「誰も信用しない…頼れるのは自らの財産と権力のみ。軍から叛乱が起き、王権を取られる事を危惧するような王です」 卑しい笑い、言葉。思い出すだけで嫌気が差す天の王。 「―-透錐はしばらく前から幹部から外している。情報が全て流れてはいないと思いたいが…」 「いいんですか」 「何が?」 突然の問いに、朋蔓が聞き返す。 「裏切った私の言葉を信用してしまって。少なくとも、透錐の方には証拠が無い」 言われて、彼は、腕を組みしばらく考える。 「…私くらいは、お前を信用してやっても良いんだがな」 「幹部の貴方が?」 「私はお前がここの門前に捨てられていた頃から知っているんだ。お前は嘘を付くのがおっそろしく苦手だって事も」 「…そうでしたっけ…」 「ああ、そうだよ」 言いながら朋蔓はくっくと笑う。 いつも馬鹿正直なものだから、嘘でもつけば切り抜けられる場面でも、董凱に怒られていた。 「まぁ、私も透錐を疑っている一人だ。証拠ならば後から付いてくるだろう。…なんたって天を滅ぼそうとしているのだからな」 「はい」 「さて、もう夜も遅い。そろそろ休め。私も董凱の話に加わってくる」 朋蔓は立ち上がり、真直ぐに扉に向かって部屋から去った。 縷紅は明かりを消し、横になる。 会議の決断を一刻も早く聞きたかったが、眠気が酷い。 意思とは裏腹に、眠りの中に引き込まれた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |