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RAPTORS

「私が東軍に反感を持っていたのも事実なんですよ。戦をする意味が理解できなくて」
 独白するように縷紅は言う。
「私に東軍の――地の人々の気持ちなんて理解できる訳が無いんです。天から受けた苦痛なんて。歴史だって知ったフリは出来るけど、実感する事など不可能…」
 朋蔓は黙って聞いている。
「私は天の人間である事を、軍に入って強烈に感じていました。東軍で育ったとは言え、天と地には埋められない溝があると。だから私は自分を偽らず天の人間でありたいと思うんです。天の国に尽くしたい。祖国が好きだから。…その為にこの国を変えたい。地の力を借りてでも」
 奪い、従わせるこの国を変えたい。天に見合った気高い精神に。
「…分かって、頂けますか?」
 最後に不安そうに朋蔓に訊いた。
 彼は一度だけ深く頷いた。そして笑う。
「相変わらずワガママな奴だな」
「スミマセン…。高望みだけは得意なので…」
「全くだ」
「…しかし、透錐はまだ東軍に?」
「ああ。居る」
 再び真顔に戻った朋蔓は、縷紅の不安を見通したようだ。
「だからと言って私はお前が東軍を崩しに来た間者だとは思わない。実を言うと透錐のスパイ疑惑は以前からあった」
「彼は軍のスパイでは無かった。軍の上司は誰一人彼を知る者は居なかった…」
「では誰が放ったスパイだと?」
「―-国王。恐らくは…」
「王直属と?」
「私の調査にも限界があったのでハッキリした事は言えませんが。しかしそれ以外に考えられない」
「…しかし、何故…。普通そんな仕事は軍だろう」
「そういう男なんですよ」
 ぽつりと、縷紅は言った。
「そういう?」
「誰も信用しない…頼れるのは自らの財産と権力のみ。軍から叛乱が起き、王権を取られる事を危惧するような王です」
 卑しい笑い、言葉。思い出すだけで嫌気が差す天の王。
「―-透錐はしばらく前から幹部から外している。情報が全て流れてはいないと思いたいが…」
「いいんですか」
「何が?」
 突然の問いに、朋蔓が聞き返す。
「裏切った私の言葉を信用してしまって。少なくとも、透錐の方には証拠が無い」
 言われて、彼は、腕を組みしばらく考える。
「…私くらいは、お前を信用してやっても良いんだがな」
「幹部の貴方が?」
「私はお前がここの門前に捨てられていた頃から知っているんだ。お前は嘘を付くのがおっそろしく苦手だって事も」
「…そうでしたっけ…」
「ああ、そうだよ」
 言いながら朋蔓はくっくと笑う。
 いつも馬鹿正直なものだから、嘘でもつけば切り抜けられる場面でも、董凱に怒られていた。
「まぁ、私も透錐を疑っている一人だ。証拠ならば後から付いてくるだろう。…なんたって天を滅ぼそうとしているのだからな」
「はい」
「さて、もう夜も遅い。そろそろ休め。私も董凱の話に加わってくる」
 朋蔓は立ち上がり、真直ぐに扉に向かって部屋から去った。
 縷紅は明かりを消し、横になる。
 会議の決断を一刻も早く聞きたかったが、眠気が酷い。
 意思とは裏腹に、眠りの中に引き込まれた。


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