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RAPTORS

 後日行われた勝負はほぼ互角、微妙に透錐が上手だっただろうか。
 問題はその勝負の後だった。
 縷紅が宿舎に帰ろうとした時、透錐の方から話しかけてきた。
「君、強いねぇ」
 暗くなりかけた道を、後ろからのんびり歩いてくる。
 縷紅は立ち止まって透錐を待った。
「今日はたまたま君の調子が悪かったから良かったけど、別の日に試合をしたら、僕は負けるだろうな」
 口調ものんびりと透錐が言う。
「別に不調ではないですよ。あれが今の私の全力です」
「だとしても、明日には僕は負けてしまうさ」
「そんな事無いですよ。今日は無理を言って試合してもらって、ありがとうございました」
 “とんでもない”と、透錐は笑いながら首を振る。
「だけどね縷紅君、調子が悪かったのは確かだろう?」
「何故そう思うんです?」
 本気で不思議がる縷紅の顔を見て、透錐はまた笑う。
「図星だろう?教えてあげるよ、切先が迷っていた」
「…え?」
「自分でも気付かないほど、微妙にね。何か悩み事がある?」
「別に…何も…」
「ま、君には董凱が居るからな。僕がでしゃばらなくても彼に相談すれば良い事だもんな」
「董凱はいつも忙しそうで、話す暇なんて無いですよ」
「そうか、頭だからな。…ところで君は天の子かい?」
「ええ。恐らくは。証拠が髪色しかありませんけど」
 あっさりと縷紅は答える。
「東軍の中でそんな髪は君だけだな」
「外にもそんなに居ないらしいですよ」
「この街の外へ出た事がある?」
「無いです。一度も」
 この時の縷紅には、高い塀で外界と遮断されたこの街から出る必要など無かった。
 自給自足の東軍の人々が街の外に出るのは、戦の時ぐらいだ。
「…出てみたい?」
 縷紅は一度首を縦に振ったが、すぐに思い直して横に振る。
「董凱が許してくれない」
「へぇ?彼の言う事なら何でも聞くの?」
「そんな訳じゃ…ないですけど…」
「あれ、もしかして」
 透錐は目を細め、口の端を吊り上げる。
「董凱…いや東軍に疑念を持っていたりして」
「別にそんな事ないですよ…」
「ホラ図星。顔に書いてあるよ?」
 口をつぐんでしまうのは、確かにそれが当たっていたから。
「悩み事もそれかい?それじゃあ董凱に言えないよなぁ」
「じゃあ聞きますけど、今の東軍は本当に正しいんですか?」
 覚悟が決まったのか、縷紅の目が据わっている。
「戦をする理由が見えない…。何故人を殺す必要があるのか…」
「そうだな。全く無意味かも知れん」
「―-え?」
 全く予想していなかった答えに、縷紅は目を丸くした。
「東軍の目的は天の王朝を倒す事、でもそれに何の意味があるんだろうなぁ?ひょっとすると単なる私情による恨みかもしれないし、この国自体を横取りしたいのかもな?」
「まさか…」
「君はそれを確かめる権利があるよ。なんたって天の子なんだから」
「…どういう事です?」
 透錐は縷紅の肩に手を置いて、言った。
「外から東軍を見るんだ。間違った道を歩んでいるなら正さなきゃな」
「え…」
 意味が分からない、と眉をひそめる。
 すると透錐はぐっと小声で言った。
「君は董凱を絶対視しているから分からないだろうけど、彼はとんでもない人だよ」
「―-―」
「彼の真の目的は、地と共に天を滅ぼした後、地をも滅ぼして両国を従えようとしている。君は彼に疑念を持たぬよう洗脳されているんだ」
 縷紅は透錐から数歩離れ、強張った笑みで言った。
「…冗談、キツイですよ」
 だが透錐は真剣な顔だ。
「真実を見たいかい?私と彼のどちらが正しいのか」
 縷紅は頷く。もはや彼には董凱が正しいとは言えなかった。
 透錐は何か納得したように頷いて、言った。
「東軍を出て、天の本島へ渡るんだ。王城の許に軍基地がある。真実はその中だ」


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