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RAPTORS
10
 見回りついでに、隼は栄魅の元へ向かった。
 彼女は壁に背を預け、歩いて来る隼に手を振った。
 彼女の隣に腰を下ろす。
「忙しいんじゃないの?」
 からかう様な口調で栄魅は訊く。
「嫌な野郎が消えてくれて、一息ついた所だ」
 呆気なく隼が言う。
「でも私に油を売る暇があるなんて。王様は放っといていいの?」
「別に、基地の中だし」
「ふーん、そんなもんなんだ」
 隼は少し間を空けて、口を開いた。
「初めてマトモに話せる同胞に会った」
「…そうなの?」
「根の人間をついこの間まで、自分以外知らなかったから」
「そうね…私も地に来て初めて会ったわ」
「何故俺を許す気になった?」
「えっ?」
「憎いんだろ、根の民が」
「…でも、あなたは殆ど根と関係無いんでしょう?」
「どっこが。見るからに根の人間だ。しかも光欄の血の者…それでも?」
「…もしもさ、捨てられずにあの女の側にずっと居たら…彼女を止めてた?」
 意外な問いに、隼はしばし考えた。
「…止めてねぇな。縁切って他人のフリか…」
「なぁんだ」
「それか、奴が王を殺す前に俺が奴を殺す。奴の治世に耐えられない事は目に見えてるからな」
「本当に、殺したいの?」
「八つ裂きにしても気が収まらない」
「恐い人ね」
 ふふ、と笑って栄魅が言う。
「私、あの女よりも根の民の方を恨んでいるのかもしれない」
「父親を殺した奴より?何故?」
「以前は皆、父にいい顔をしていた…少なくとも悪口なんて誰も言ってなかったわ…。なのに、王が倒れた瞬間に愚王だと罵りだす。こんな裏切りって無いわ。誰もが偽りの忠誠心しか持ってなかったなんて…」
「――」
「国外追放なんて無くても、こっちからあんな国は願い下げよ。父はあの時、地との関係を取り戻そうとしていたのに…」
「そうだったのか…」
 あと一歩で長い憎しみ合いに終止符を打てたのに。状況は逆戻りどころか更に悪化した。
「何でそんなに戦って、領地を奪って、血を流して…何故そんな事を皆望むのか、理解できない」
「理解したくも無いな」
 素っ気なく隼が言った時。
「てめぇ一人占めしてんじゃねぇよ!!」
「そっちこそ肉ばっかり取ってんじゃねぇよ!!」
 地下道に反響する、半ば頭痛を誘う声。
「アイツらはネズミか?それともゴキブリ?」
 仮にも王が、ネズミやゴキブリに例えられるのは、恐らくこの国だけだろう。
「見張りが必要なんじゃない?数少ない食料なんだし」
 栄魅が隼に、悪戯っぽく笑いかけた。
「ったく、俺は食料の見張りならまだ甘んじるけどな。何だってネズミの見張りをしてるんだ…」
「ネズミ様サマね。早く行かなきゃ、全部無くなっちゃうんじゃない?」
「今度からネズミ捕りでも置いておくか…」
 やっと隼は立ち上がる。
 黒鷹と鶸――二人のネズミはまだ言い争っている。
「ねぇ、隼」
 振り返ると、揶喩する様な笑み。
「あんな王サマで、勝算あるの?」
 実はイターイ所を突かれた隼。
 がりがりと頭を掻いて、
「…奴が何もしなけりゃ、勝機もあるんじゃねぇの?」
 苦虫を噛み潰した様に言って、うんざりしながらネズミの主の元へ向かった。




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