[携帯モード] [URL送信]

RAPTORS


 その夜中、茘枝が天の偵察から帰ってきた。
「たっだいまー黒ちゃん!北帰島以来ね?骨はくっついたの?」
「くっついてなきゃここに居られないから。どうだった?天は」
「とりあえず混乱してるわ。奴隷が消えたってね。大体はまだ私達の存在に気付いてない。…変だけど」
 言いながら縷紅を見て笑う。
 彼が姶良に言った小細工を見透かしているかの様に。
「まるで私達が既に消えていたものと思い込んでたみたいよ。大規模な反撃はまだ無いと思っていいわ」
「…そっか、じゃあ…」
 黒鷹も縷紅を見遣る。
「縷紅が天に行くなら今のうちだな」
 茘枝は少し驚いて見せ、すぐに納得したように彼に問うた。
「行くの?東軍へ」
「はい」
「それでさ、どうやって縷紅が天の奴らに見つからないようにするか悩んでたんだけど」
「そうねぇ…」
 静まり、火の燃える音だけが地下に響く。
 と、それまで黙っていた鶸が声をあげた。
「俺すっげぇ良い事思い付いた!!」
 だが、周りは冷たい。
「どうせメシの美味い食い方とかそんなのだろ?」
 黒鷹が鶸の考えそうな事を先に言えば。
「違うよ。絶対に縷紅が縷紅だってばれない方法」
「何だよ、言ってみろ」
 鶸はにーっと笑って言った。
「女装!!」
 …場が凍り付いたのは言うまでもない。
 黒鷹と隼は「ホラやっぱり奴の考えそうな事だよ」と呆れている。
 だが、約一名は。
「いいねぇそれ!!私がプロデュースしてあげるっ!」
「はぁ〜っ!?」
 楽しそうに賛同した茘枝に、呆れ果てていた二人から声があがる。
「冗談言ってんじゃねぇよ!?遊びじゃねぇんだから!」
 隼が怒鳴るが。
「遊んでないよ。第一、絶対ばれないじゃん!」
「ちょっと、お前も何か言えよ縷紅!」
 黒鷹から振られ、縷紅は困ったように
「…じゃあ、お願いします」
「なっ!?」
 かくして、縷紅改造プロジェクトは幕を開けた。


 それが思ってもみなく似合っていたから、一同呆然の事。
 一人踏ん反り返っている茘枝。
「ホラ、私の腕もあるけどさ、元がいいからさぁ」
「さりげなく自慢しない、そこ」
「いや〜でもこれなら大丈夫だな」
「替え玉だったりして」
「イミ無っ!」
「失礼ね、正真正銘本物よ!」
「あのー…」
 縷紅は話の輪に入ろうとしたが。
「しっ!話したら声でばれるでしょうが!!」
 凄い剣幕で茘枝に釘を刺される。
「内輪なら良いじゃんかよ。声だってそんなに違和感無いし」
「話さずに行けって方が無理じゃん」
 黒鷹と鶸に口々にフォローされ、茘枝は“そうだけどっ”と口ごもる。
「なぁ、女装ってどんな感じ?」
 鶸は興味津々な目を縷紅に向ける。
「どう、と言われても…。変な気分です…。とりあえず、服が重い…」
「男が女物の服を重がってどうするの!」
「…スミマセン…」
「かわいそー」
 思わず呟く黒鷹。しかし一方で、自分じゃなくて良かったと安堵している。
「いつ発つんだ?」
 隼が一人冷静に訊く。
「今すぐにでも」
「どのルートで行くの?」
「正面から、門を通って行きます。三界山から行けば逆に怪しまれる」
「そうね…。馬を用意したわ。私の愛馬よ」
「ありがとうございます」
「さ、お披露目会は終わり。三人とも民の様子を見て来てよ」
「何で命令されなきゃなんねぇんだよ…」
 隼はブツブツ言っていたが、三人はそれぞれに散った。
 茘枝と縷紅は基地の外へ出、歩き始める。
「本当に一人で大丈夫なの?」
「今こちらの戦力をあまり減らしてはならないでしょう。貴女だってまた偵察に行った方がいいだろうし」
「そうね…」
 程なく、木に繋がれた一頭の栗毛の馬が見えた。
「野性馬を馴らしたんだけど、かなりの駿馬よ。門まで一日で走ってくれる」
 言いながら近づき、髦を撫でた。
「…いくら旧知とは言え、歓迎されるとは思えないわ。天ではあなたの事は内密にされてる。無理と分かったらすぐに引き返して」
「はい」
「私は東軍の事はよく知らないけど、あなたが育った場所だから、きっと良い人も居るよね…」
「茘枝」
「ん?」
「前から訊こうと思っていたんですけど…貴女のご両親は?」
「私の親?」
 茘枝は伏せ目がちに微笑んで答えた。
「二人とも、私が小さい頃に死んだわ。父は戦死、母は仕事に失敗して天で殺された」
「仕事?」
「忍の仕事よ」
 だから、彼女も忍になったのかと、縷紅は納得する。
「天を憎んだでしょう?」
「うん、昔はね。今はそれが仕方無かったのかなって思う。時代が悪かったのかなって…」
「……」
「時代のせいにして忘れようとしているのかも知れないわ」
「…私にはその気持ちは解らない」
「そうね、贅沢よね。ごめん」
 笑んで頷き、縷紅は馬に乗った。
「隼との意外な共通点よね、捨て子なんて」
「彼は嫌がるでしょうけど」
 微笑んで頷き合うと、縷紅は馬首を進行方向に向けた。
「…いってらっしゃい」
「行ってきます」
 駆け出した馬に向けて茘枝は呼び掛けた。
「なるべく早く帰って来てね。この国と――私の為に…」
 語尾は風にさらわれて、届いていたのかどうか。
 天を憎まなくなったのは――彼が、いたからだ。




[*前へ][次へ#]

9/10ページ

[戻る]


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!