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RAPTORS

 闇の向こうに、高い金網が見える。
 その中の人々に、自由を返す為、ここに来た。
「やっと…ここに来れた」
 ぽつりと黒鷹が言った。
 革命軍の指揮を採る事を決意した場所。
 再びここに立った今、いよいよ彼は名実共に“リーダー”とならなければならない。
 今から、その手腕を試される。
「司祭はこの辺で待ってて。――行こう」
 四人は歩み出した。
 一国の明暗を分ける戦いへ。
「これからが本番だ」
「ゾクゾクするな」
 左右にそれぞれ塔がある。
 金網に突き当たる前に、二人ずつに分かれた。
「ヘマんじゃねぇぞ」
「そっちこそ」
 言い合って、お互い闇の中へ溶けた。
「しっかし、お前、要らん告げ口をしてくれたもんだな」
 二人きりになって、隼は相棒に言った。
「要らん?告げ口?」
 何の事だっけ、と本気で考える。
 そして、「あ」と低く漏らした。
「司祭に余計な心配させるんじゃねぇよ。もうトシなんだから」
「お前が言わないから言ったんだろぉ!?」
「言わないで良かった事だ」
 きつく言われて、黒鷹は「ちぇ」と小さく言った。
 監視塔に着いた。
 縷紅が言っていた通り、三階への階段は外にある。
「俺が上、隼が見張り」
 決め付けられ、
「何でそうなるんだよ?」
 ムッとして訊くと。
「傷、痛いんじゃなかったっけ」
 昨日受けた利き腕の傷。
 痛みは我慢出来ても、動きは鈍る。
「…行って来い」
 渋々、隼は言った。
 「へへっ」と笑って、階段を駆け上がりだした黒鷹。
 三階の扉を開け、嬉々として闘いだした。
 そんな上階を見上げつつ、彼は一階の扉に背を預けた。
 黒鷹は実に静かに戦ってくれている。しばらく自分の出番は無いと踏んだ。
「…満月、か」
 なかなか戦い易そうな得物だな、と呑気に考え、何気なく夜空を見た。
 三日月だった。
 傷と、同じ。
 ――それまでなら特に気にしないのだが。
 赤い、三日月。
 血の滲む傷の如く。
 ぞわりと。
 得体の知れない不安が波を立てる。
『――アイラ』
 耳の奥で響く声。
 あの時のままに。
「…司祭」
 背が、扉から浮いた。
 根拠は無い。
 だが、予感がする。
 あの日のように。
「黒鷹」
 上に向かって、極力気付かれない様に呼んだ。
「なぁにぃ?」
 緊張感に欠けた返事が返ってきても、それをとやかく言う間すら無い。
「一人で大丈夫だな?」
 訊いてはいるが、確定形。
 黒鷹もそれを裏切らない。
「よゆ〜。どしたー?」
 返された問いに応える事は無かった。
 黒鷹の返答を聞いたかどうか、隼は走りだしていた。
――彼女は殺された。
 天の人間に殺された。
 理由も無く殺された。
 …地の人々を、もう、誰も、殺すな。
 殺す前に、俺が殺す。
「――思い過ごしで終わってくれ…」
 呟いて、走りながら刀を抜いた。
 闇の向こうで、光が反射して、隼に届いた。
 前方に、誰かを追っている者が居た。
「待てっ――!」
 司祭の声。
 それだけで、充分だった。
 カン、と金属のぶつかる音。
 続いて、嫌な音が隼の耳に届いた。
 寒気が背に走った。
「おやっさん!!」
 もう一度、身を斬る音。これは隼の前を走っていた人物が、敵を斬った音だ。
「後ろ!」
 言われるがまま、後ろに踊り出た敵を、隼は斬った。
 どさりと、倒れる。
 辺りが再び静まり返った。
 隼の足元に、彼の“父”の血が流れていた――。



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