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RAPTORS

 夕暮れ時。
 収容所への道を五人で辿る。
 例の如く、はしゃぎながら先々行ってしまう鶸と黒鷹。
 だが昨日の今日で、立ち止まって後方集団を待つ事を覚えたらしい。
 縷紅はそんな二人に付き合う形で歩いている。いわば保護者だ。
「ほんっとにアレが王族でいいのかぁ?」
 何を今更的な事をごちて、隼は前方を仰ぎ見た。
「あのお方達が王族だから良かったんだよ、隼」
 宥める様に司祭が言う。
「…アンタはそう言わなきゃいけないんだろうけど」
「本心だよ?」
「側近になってみろよ」
 苦い顔で言って、遠くなった影を探す。
「まんざらでもないのだろう?」
「言ってろ」
 完全な照れ隠しだ。
「…隼」
 微笑を浮かべたまま、呼び掛ける。
「何だよ、今更」
 優しい声に、多少警戒しながら振り向く。
「根に行ったんだってな」
「……」
 面食らったように暫く黙り、
「あのヤロウ…」
“ヤロウ”とは勿論、黒鷹の事である。
「根に帰る気は無いのか?」
「は?」
 怒りを含む驚きの目で、司祭を見返す。
「…本物の家族と暮らす方がいいだろう」
 “ふざけるな”と言いかけて、しかし言えなかった。
 脳裏に、姉――鈴寧の顔が過ぎった。
 彼女が“家族”なら、悪くないかも知れない…。
「今更、根に帰ってられねぇんだけど、俺」
 忘れるんだったと、思い直してこう応えた。
 鈴寧も、光爛も――崔爛も。忘れてしまおう、と。
「根の空気が悪くなってんだよ。俺なんかもう二度と入れねぇ」
「ほう、根の空気が…」
「悪しき文明が生まれている。地には勝ち目が無い」
「それは光爛という人が作った?」
「ああ」
「彼女を恨む?」
「ああ」
「彼女の存在を消したい?」
「…ああ」
 頷き、
「物騒な事訊くなぁ?司祭サマよ?」
「それはお前の方だ」
 司祭の顔から、微笑が掻き消えている。
「本気でそう思っているのか?」
「ああ。そうだけど?」
 緑の瞳に躊躇いは無い。
 それが、却って恐ろしい。
「母親だって聞いたんだな、アイツから」
「実の母親を殺したいと言うのか?」
「関係無ぇよ。俺は、地を害する奴は斬る。それだけだ」
「肉親より王子を取るのか…」
「王子の側近、それが俺の居場所だからな」
 さらりと言う隼を、複雑な表情で見る司祭。
「お前が地の為を思ってくれる事は嬉しい。だが――」
 少し躊躇い、
「王子も言っておられた。そんな傷を負わされながら、よく地に仕える気になったな、と。…無理に仕え続ける事は無い。好きな様に生きなさい」
 だから今朝、傷の事を訊いてきたのかと、隼はそこに納得した。
――どいつもこいつも、要らん世話を焼いてくれる。
「おやっさん、俺は充分、好きに生きているつもりなんだけど?」
「本当に?」
「嫌ならとっくに辞めてる。…地の人間が皆こんな事する奴だと思う程、バカじゃない」
 言いながら、傷を指す。
「…俺の家族は、この国に居るんだよ」
 司祭に向かって笑んだ。
 三日月型の傷を模した刺青は、地と根の違いと憎しみを受け入れた上で、地で生きていく為に。
 “地の民”の、証だ。





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あきゅろす。
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