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RAPTORS

 息を弾ませて、見慣れた扉の前に立った。
「俺いっちばーん!」
「俺にぃばーん!」
「って言うか、お前の負け」
「でも銀メダルだろぉ!?」
「負けは負けだもんねー!」
 勝ち誇っているのは黒鷹の方である。
 因みに、本気で喜び、悔しがっているが、特に何かを賭けている訳ではない。
 無意味に競争に夢中になるのも、ガキの特性である。
「うぁ、寒ぃ!!さっさと入ろうぜ」
 鶸に言われて、黒鷹も百八十度回転し、扉を叩いた。
 程なく開く扉。
「よぉ!久しぶりだな。おやっさん元気にしてたか?」
 鶸の無邪気な挨拶に、司祭の顔も綻ぶ。
「ええ、お蔭様で。鶸様もお元気そうで良かった」
「司祭、コイツが元気じゃねぇって事なんか有り得ないから」
「それもそうですね。どうぞ、中へお入り下さい」
 司祭に促され入ってみれば、寺院も特に変わりは無いようだ。
「雨の中ご苦労様です。今、火を焚きますから、寒い所で申し訳ありませんが、少々お待ち下さいね。今日はお二人だけですか?」
「いや、後から二人来る」
「俺ら走って来たから」
 口々に報されて、「そうですか」と頷き、暖炉を弄り始めた。
 やがて、暖かな火が燃えて、三人でそれを囲む。
「鶸様がご無事で本当に良かった…。今まで、どのように暮らしていらしたのですか?」
「…盗賊やってた。孤児集めて」
「おや…」
「生きる為に、他に術が見つからなくってさ。…悪いとは分かってんだけど」
「生きていれば、償いも出来ます」
「そうだよな。ありがと」
 鶸の人懐っこい笑みを、司祭は見る事ができない。だが、気持ちは十分に通じているのだろう。
「ああ、そうだ司祭。俺達根に行ったんだ。俺と、隼で」
「――根に?」
「同盟、結んで貰おうと思ったんだけどな。ま、それは断られたオマケに殺されかけたんだけど」
 そこまで言って、話しても良いものかと黒鷹は迷う。
「…隼から、直接聞いた方がいい?」
 思わず、尋ねてしまった。
 無論、司祭は何の事か判らず、怪訝な顔をする。
 それを見て、“結局、話さなきゃならなくなった”と苦笑した。
「隼の母親に会った」
 後でアイツ怒るだろうな、と思いつつ。
「ええ!?」
 二人の驚きの声が被る。鶸も初耳だ。
「…詳しく言った方がいい?」
「お願いします。隼は訊いても話してはくれないだろうから」
 司祭の言葉に納得し、話す事に決めた。
「名前は光爛…根の総帥」
「総帥?」
「根の王を倒して、自分が代わりに統治している」
「スゲェ。大物じゃねぇかよ」
「…そうすると、同盟を持ち掛けたのも…」
「ああ。光爛に話した。それで殺されそうになった」
「…隼も…」
「最初から殺すつもりだったんじゃないかって、隼は言ってた」
「酷い…」
「今はお互い様。隼も殺気立ってる」
 司祭は険しい顔をして黙る。
 代わりに鶸が訊いてきた。
「何で自分の子供を殺すんだよ?」
「さぁな、俺もよく解んねぇけど」
 利用される事を恐れている、とは聞いたが。
「親子関係以前に、何かもう他人みたいだしさぁ。根の人は、地の人を恨んでいるから殺すって…そのせいなのかなぁ…」
「それは地でもそうですよ」
「え?」
「地の人が、根の人を見付ければ殺す…そんな事が時にありました」
 それもあって、根の人々は他国と交わらなくなった。
「…隼は…」
 根に発つ前の言葉。そしてあの傷。
「地の人々に殺されかけていたところを、保護されたんです」
「――それでよく地に仕える気になったな…」
「あの子自身は地の民になろうと、ずっと努力してきた訳ですから。それ以上の誉れは無いでしょう」
「でも、何か騙しているみたいで、悪い…」
「貴方が気に病む必要はありませんよ。それに、仕えるのが貴方だったから、良かったんです」
「……」
「でも何でそんなに仲悪いんだ?」
「憎しみが憎しみを生んできたのでしょう。事の原因ははっきりしませんが、根の民は元々地の民だったようです」
「え?仲間割れ?」
「ええ。戦をして負けた民が根に追いやられた、と」
「何で戦したの?」
「さぁ、そこまでは…。随分と昔の話ですからね」
「ふぅん…。そろそろ仲良くすればいいのに…」
 鶸の言葉を、火を見つめながら噛みしめる。
 ――行かなければいけない。
「司祭」
「何でしょう」
「俺また行くな、根に。もうそんな事で誰も悲しまない様にしなくちゃ。…隼は連れて行けねぇけど」
 司祭は頷いたのか、頭を下げたのか。
「お願いします」
 そう言って微笑した。




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あきゅろす。
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