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RAPTORS
14
「どーゆー事だよっ!?」
 力任せに舟を蹴る。
 そのお陰で、舟が海に向かって少し前進した。
「穴は空けるなよ。帰れねぇから」
 舟を押しながら、隼が落ち着いた声で言う。
 兵を倒し海岸に来てみれば、言われた通りに舟が用意してあった。
 海外に着くまで、黒鷹は散々に罠だと反対したのだが。
 隼は「これ以外に方法無いだろ」と取り合わない。
 そうやって来た結果、待っていたのは舟だけだった。しかもご丁寧に、食料まで用意してある。
「隼、お前何か知ってるな?」
「別に。ただ予告無しだったなと思って」
「…どういう事?」
 舟が海に浮いた。隼が先に乗り込む。
「…舟が沈む訳でもなし」
 一人ごちて黒鷹に言う。
「乗れよ。安心して本島に帰れるぞ、これなら」
「…なら、いいけど」
 ざぶざぶと浅瀬を歩き、隼に引っ張られて舟に乗る。
「羅沙は裏切ったんじゃねぇのか?」
 帆を張るのを手伝いながら、隼に訊く。
「ま、俺達を売った点では裏切りだろうけど」
「ほらやっぱり」
「ずる賢いって言うか、羅沙らしいやり方だな、あれは」
「ずる賢い?」
「あいつは単に金を手に入れただけだよ。ついでに根の連中の疑いも晴らしてな」
「…は?」
「結果的には逃げるの成功してんじゃん、俺達」
「まぁ、そうだけど…」
「本当に売る気なら舟なんか用意しねぇよ。しかもお前に武器まで渡して」
「あ、そか…」
「浜辺に兵が一人も居なかったろ?ついでにそれも狙ってたんじゃねぇ?」
「と、言うと?」
「どさくさに紛れて島を出れる様に。どの海岸からどっちに向かったかバレたら帰島も難しいし、ついでに挟撃も避けてさ」
「へー。何気に考えてんじゃん、アイツ」
「ま、後は俺達の実力に賭けたな。強行突破出来なかったら意味が無い」
「でも、売られたと思ったら腹立つなぁ…」
「そう言うな。お前の為だよ」
「へ?」
 意外な言葉に隼を振り返る。
 彼は島の方を眺めていた。
「言ってただろ、いつか人集めて力になるって」
 根の監視の目から逃れて、動き易くする為に。
「…早く、会えるといいな」
 黒鷹も島を見つめながら、ぽつりと言った。
「ああ、鶸も喜ぶだろうし」
 隼も素直に頷く。
「あのさ、根に行って良かったな…って…思ったんだけど…」
 隼に睨まれて、語気はだんだん弱くなる。
「それとこれとは別物だ」
「でも根に行くって言い出したのはお前じゃんよー!根に行かなきゃ、一生この島に来なかっただろうし!?」
「だからって根に行って良かったとはならない!」
「そんなに嫌?」
「イヤ」
「俺はまた行くよぉ?仲良くしてもらう為に」
「どーぞ、ご勝手に」
「“仲良く”ってのは、お前と光爛の事」
「余計なお世話。つーか一生ムリ」
 「そうかなー」と首を傾げる黒鷹。
 隼としては、もう帰る気は無い。紙切れと共に全て棄てた。
 根を――否、過去を。
 島はいつしか、水平線の向こうへ消えた。


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あきゅろす。
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