RAPTORS
13
街の中に、遠く、見慣れた姿を見つけた。
「あ、隼だ」
黒鷹が笑って、隣を歩く人物に示す。
「やっべぇな。用心棒に怒られる」
「なんで?」
「姫君を勝手に連れ出したからな」
羅沙は冗談のつもりだったが。
“姫君”は笑顔で、
「ぶっとばすぞ」
語尾にハートが付かんばかりに言った。
「…こんな乱暴な姫は居ねぇな…」
「そうですわよ」
「なんて口調だ。…て言うか、お前が女みてぇなツラしてるからだろ。よく女に間違われねぇなソレ」
「だぁ〜もう、女、女ってうるせぇなぁ。母上のとびきり美人な遺伝子が濃ゆいんだよ俺は!何ならナンパしてみるかぁ?あぁ?」
「逆ナンでもお断りだ」
「誰がするかテメェみたいな奴」
「…お前ら何話してんだよ…」
いつの間にか隼が、目の前に立っていた。
「ちょっと聞いてくれよ隼ぁ〜。コイツさぁ、俺をムリヤリ連れ出してナンパしようとするんだぜぇ?ったくやってらんねぇよ」
「お前黙ってりゃいい気になりやがって。俺はてめーがなよっちい女みてぇだとしか言ってねぇ!ナンパはお前から言ってきたんだろうが」
「…気色悪い」
隼がぼそりと言った。
ごもっともな意見に、二人も黙らざるを得ない。
「くだらねぇ事言ってねぇでさっさと帰れ。首を根に持って行かれてぇのか?」
「あ、隼ぁ!それはもう心配御無用!」
「あぁ?」
「羅沙がね、州侯城にあった武器を俺にくれたんだ。だからもう俺様ムテキ。怖いモン無し」
「…その為に出てたのか?」
『あ゙』と二人は顔を合わせる。
「後で軽く殴ってやるからな、二人共」
やっぱり怒っていた。
「それにしても、羅沙?」
「…何でしょう」
すっかり恐縮している。
「何故、あんたが黒にくれてやる武器があると知っている?」
「そう言えば、そうだな。ミョーに詳しい」
羅沙は城に仕えていた訳ではない。華南だって武器の事まで知る筈が無い。
「…よく、城の中で遊ばして貰ってたからな」
「鶸と?」
「ああ。色々教えてもらった」
「仲良かったんじゃん」
羅沙は「そうだな」と、頷く。
「またいつか島に来いよ。鶸も連れて」
「ま、国が出来たら鶸を州侯にしなきゃなぁ。その時は皆で来るよ」
「気が早いな。第一、州侯が鶸なんざ、先が思いやられる」
「じゃ、お前がなるか?隼」
「それは狸の皮算用と言うものだよ、王子サマ」
「あ、ひでぇな」
笑いながら羅沙は、黒鷹の肩に手を回した。
「俺達も建国の為に、出来る限り協力してやるよ。いつか島の若い奴を集めて兵力になってやるからな」
「…マジで?」
「ああ。俺達も地の民だから。その時また会おうな」
「あの…無理するなよ。本当に戦いたいって人だけ集めてくれ」
「分かってる」
黒鷹は一つ息を吐いて、笑った。
「ありがとな。俺、ここに来て良かった」
「だろぉ?俺ってば王子に恩を売り付けちまったな」
「ぶぇっつに、羅沙の事じゃねぇもんっ!」
「あぁん?あれっだけお世話してやったのに、その態度かぁ!?」
「あれは、俺がてめぇに遊ばれてやったんだよ!」
「――おい」
妙に緊迫した隼の声。
二人は前方に目をやった。
兵の大群が、迷いなくこちらに近付いて来る。
「やっば…」
「逃げるか?」
「無駄だよ」
冷たい羅沙の声。
「全部囲まれている」
「――嘘」
愕然と黒鷹は言った。
その横で、隼が刀を抜く。
それを見て、黒鷹も“満月”を取り出した。
「ここを右に曲がって直進すれば、海岸がある。そこに船を用意した」
羅沙が低く言った。
「――羅沙?」
「行けるよな?」
言いながら刀を抜く。
そして、大軍に向かって言い放った。
「約束通り、懸賞首を連れて来た。金を貰おう」
黒鷹は耳を疑って立ち尽くした。
だが一瞬の後、隼に腕を引っ張られてその場を去った。
通りを右に行けば、そこもまた兵が待ち構えている。
戦いの中、羅沙の背を見た。
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