[携帯モード] [URL送信]

RAPTORS
11
 悲しい色を浮かべた虚城は、今はツタだけが生きている。
 主を失って十年も経ってはいないが、外壁は所々朽ちている。
 以前は美しかったであろう庭園。雑草が伸び、池の水は涸れ、木は鬱蒼と茂っている。
 その体は、主の最期を反映しているかの様に。
「ここもキレイにしなくちゃな…いつかは」
 黒鷹の呟きを聞いて、ぶっきらぼうに羅沙は言った。
「全部ブッ壊して建て直せば早いのに。どいつもこいつも元に戻す事しか考えてない…」
「その頃が戻る様な気がするからな」
 黒鷹は島の人々の思いを代弁したつもりだった。
「戻る訳無いだろ」
 あくまで羅沙は、復元を望む人々に言っているのだが。
 黒鷹の心に、痛く染みた。
「…戻るわけ…」
 口の中で羅沙の言葉を繰り返す。
 自身が望んでいたのだ。無意識に。
 過去に、戻る事を。
 羅沙の言葉に思い知らされた。
 城を戻しても、物を戻しても、平和を戻しても。
 人は、戻らない。
 逝った人、それに過去の自分は永遠に戻らない。
 例え、どんなに真っ直ぐに引かれた未来が用意されていても、残酷なものかも知れない。
 軋んだ音を立て、城門が開いた。
「何しに連れて来たんだ?」
 この城に、何があると言うのだろう。
「来い」
 聞いているのかいないのか、それだけ言ってさっさと行ってしまう。
 広い庭園を見渡しながら歩いた。
 荒れ放題、しかも初めて来た場所なのに、何だか懐かしかった。
 木の陰から、ひょっこり小さな鶸が出て来そうな雰囲気を、今も保っている。
 この木々は、自分の知らない彼を知っている。
 屋根の付いた回廊に出くわした。
 これを通ると城の本殿に行き着く。
 荒れているが、建物は美しかった。元に戻そうと思う人達の気持ちも解る。
 純白の、城。
――叔父に、罪は無かったのだろうか。
 ふと、思う。
 守ろうとしたその一心で、彼の犯した罪など考えた事も無かった。
 もしも、叔父が父の暗殺を成功させていたら。
 間違いなく、自分は彼を――否、彼の周囲の人々までも復讐せずには居られなかっただろう。そう、鶸も。
 どちらにしろ、刀を持っている。
 刀を持っていなければ、あの戦は生き残れなかった。
 皮肉な運命。
 それにしても、この汚れなき純白の城に住みながら、何故あんな事に――
「ちょっと待ってろ」
 突然、羅沙が言った。
 そのまま彼は建物の中に入って行く。
 暗い、地下への階段だった。
 闇に羅沙の背が消えるのを、黒鷹は見送った。



 しばらくして、羅沙は現れた。
 手に、見慣れぬ物を持って。
「待たせたな」
 階段を上って来ながら、彼は言った。
「暗くてホコリだらけで探すのに苦労した」
「…何、ソレ?」
 階段を上がりきって、新鮮な空気を吸おうとばかりに、深く息をする。
 そうしてやっと黒鷹の問いに答える気になったのか、それを彼に差し出した。
 黒い皮で覆われた、円形のもの。
 受け取り、不思議そうに眺め回す。
「なんじゃこりゃ」
 判らない。
「覆い、取ってみろ」
 言われてみると、成程皮は取れる様だ。
 取り払う。
 更に大小二つの円が現れた。
 銀色の光を湛えて。
「これって…」
「この城の宝」
「え゛」
 がたがたと元に納め、
「これって泥棒じゃんよぉ!!」
「お前にやるから泥棒じゃない」
「罪を他人になすりつけるのかぁ!?極悪人め!!」
「ちったぁ人の話を聞け」
「はい」
 素直に正座。
「これは国からの預かり物だ。正確に言えば、な」
「へ?」
「国……と言うより王家の所有する宝なんだよ」
「…なーんだ。じゃあ俺の物じゃん」
「だから泥棒にならない」
 断言されたが。
「でも、勝手に持ってっちゃっていいの?」
「誰に断りを入れるんだ?」
「……だな」
「だろ?」
「――んでもさ、まだ鶸が居るって!一応ここはアイツの城だし…」
「じゃあ鶸様の所へ行くか?」
「…どの道、今から帰るな」
「って言うかな、それはムダな議論と言うものだよ王子サマ」
「ムダ?」
「国家権力で取り返せばいい話」
「俺の物なのに?」
「分かってんじゃん」
「分っかんねー!混乱してきた」
「とにかくそれはお前の物で良いんだよ!」
「…じゃ、頂きまーす。それでコレ何?」
「王家の宝刀“新月”と対になっている“満月”だ」
「…つーまーり、新月の仲間だから俺の武器か」
「何だその理屈」
 羅沙のツッコミを聞き流し、黒鷹は満月を抱えた。
「うっし、帰るか。ここはホコリ臭ぇわ」





[*前へ][次へ#]

11/14ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!