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RAPTORS
10
 二ヵ月が経った。
 地の国北方の島――北帰島。
 華南の家の中で。
「はーい、ここまでですよー。あぁもう少し、はい良く出来ましたー」
 赤ちゃんの歩行訓練…もとい黒鷹のリハビリが行われていた。
「お前ら人を何だと思って……」
「ガキは大人しくしてろ」
 目の前でガラガラが振られる。
 完全に黒鷹は隼と羅沙のオモチャと化していた。
 主犯は羅沙だ。
「んじゃ、次はここまで歩いてみましょー」
 隼にしてみれば、保父さんと化した羅沙も笑えるのだが。
 とにかく奇妙な構図である。
 二人の毒のある兄貴分に揉まれ、黒鷹も“骨太”に快復に向かいつつある。



 更に月日は経ち、走り回れる程に治った黒鷹。
 “もう大丈夫だ”と本人も周囲も思い始めた頃。
「――華南」
 仕事に家事にと忙しくしている彼女を捕まえた黒鷹。
「王子…どうしました?」
 華南も手を休め、黒鷹を見る。
「――もう動ける様になったし…。帰ろうと思うんだけど…」
 妙に歯切れが悪い。
「ほんと、長い間お世話になりました」
 ぺこりと頭を下げる。
「いえ、こちらこそ…。楽しかったですよ。有難うございました」
 慌てて頭を上げさせ、代わりに自分が頭を下げる。
 不意に、黒鷹は俯く。
「どうかしましたか?」
 優しい微笑で、華南はしゃがんで黒鷹を覗く。
「何でもおっしゃって下さい。私で宜しければ、お聞き致しますよ?」
「……華南、俺は…帰りたくないと思ってる…」
 掠れた声。
「王位から逃げたいと思ってしまう。それは民への裏切りだと解っているけど…。もう嫌だって思ってしまう。どうすれば、いい…?」
「王子――」
「俺が戦をしようとしてるんだ!誰も死なせたくなんか無いのに!俺が、民を殺そうとしている…。民を盾に国を作ろうとしている…俺は、最低な王だ」
「帰りたくないのですか…」
 黒鷹は深く頷く。
「ここの平和が羨ましい。戦場に戻りたくなくなるくらいに」
「じゃあ、戻るな」
 突然、羅沙がぬっと現れた。
「俺達はお前くらい重荷にもならん。ここに残っても構わない」
 黒鷹は顔を上げ、真意を汲むべく羅沙を見る。
「ただ、お前が戻ろうと戻るまいと民は死ぬ。現に今も皆苦しんでるんだろう?お前はそれを見て見ぬフリでいいのか?」
「―――」
「強いんだろ、お前は」
「…そんな事、無い…。誰も守れなかった、弱い奴だ…」
「じゃあ自分の民くらい守れ。それが出来ないなら王じゃない」
 そうだな、と心の中で返す。
 これ以上、後悔して、また弱くなるなんて、許されない。
「…無礼は、お許し下さいね」
 穏やかに、華南が言った。
「ちょっと、来い」
「え?」
 羅沙に言われるがまま、歩みだす。
 家を出、しばらく街を歩く。
 程なく、一つ抜けた高さの建物が見えた。
「――あれは…」
 そこに向かっている事に気付き、羅沙を見上げる。
「州侯城」
 黒鷹の言葉を継いで、羅沙が言った。
 かつて、鶸達が住んでいた城。
 今は、誰も居ない。




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