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RAPTORS

 冷たい岩肌が、身の火照りを冷ます。
 複雑な色をした顔を上に向ける。
 何事も無かったかの様に、岩の割れ目から星が見えた。
 三人。
 その数字以上に、失った物は大きい。
 何も出来なかった。
 守ってやれなかった。――また。
 血の中で立ち尽くした、あの時の様に。
「…俺って弱い奴だな…」
 独り、呟く。
 何も出来ない、力の無い自分。
 今までそれを痛感した事が思い出される。
 自分を救ってくれた伯母を、礼も言えないまま看取った時。それを誰よりも悲しんでいる筈の友を、励ます事すら出来なかった。
 祖国が滅ぶのを、目の前にしながら何も出来なかった。
 そして、何よりも大切な友は、いつの間にか彼の前から消えてしまった。
 重い使命だけが、目の前に残っている。
 果たす事が出来るのだろうか。この、無力な自分が。
「――鶸」
 入っても良いか、尋ねる声だ。
 鶸は無言で持って答える。
 縷紅が、扉代わりの布を潜った。
「遅かったな」
 今帰ったばかりなのだろう。血まみれの服を着替えていない。
「“事後処理”をしていました」
 結局彼女は、この件をどう処理するのだろうと、ふと思う。
「そっか、お疲れ。もう今日は休めよ」
「お邪魔でなければ、一言言いたい事があって」
「…何?」
 叱られるのかと思った。
 三人の責任を、どう取るのかと。
――誰かに叱って欲しかった。
 だが。
「今日の事は、私のせいです」
「…は?」
「私がここに居たから、天の者に嗅ぎ付けられた――」
 彼女を殺さなかったが為に。
「それって…つまり…」
 鶸はよく飲み込めないでいる。
「縷紅がここに居たから、俺達の居場所がバレたって事?」
「そうです。…申し訳無い事をした…」
 この人物に、三人の責任がある…?
 自分は彼を責めるべきなのだろうか。よく、判らない。
 そして不可解な感情が鶸を支配した。
「何でお前が謝るんだよバカヤロー!!」
 考えるより先に怒鳴っていた。
 怒鳴られた方は、意味が解らず困っている。
「俺がお前を責めてどうすんだよ!!俺そんな事しねぇよ!」
「……」
「俺は仲間を恨みたくないんだよ!!」
 そういう事か、と縷紅は理解した。
 全く素直な少年だ、そう思って心中で笑む。
「謝って、ごめんなさい」
 とにかくそう言った。
 鶸は“うん”と頷く。
「俺だって悲しいし、めちゃくちゃ後悔してるけど、へこんでばっかりじゃいられないから」
 自己嫌悪にはなるけれど。
 同時にもっと前に進まなければと思う。
 いつも鶸はそうやってきた。
「ならば一つ提案させて頂きます」
「案?」
「城跡地に、隼の使っていた革命軍の隠れ家があります。そこに基地を移せば、今しばらくは安全かと」
「――城跡…。でかい引越しだな」
「多少遠いのですが、ここに残るよりかリスクは少ないと思います」
「なら早い方がいいよな。また天の奴らが来ないうちに移っちまおう」
「――はい」
 心得た様に縷紅は笑む。
「茘枝は帰って来たんだよな?」
「はい」
「…やっぱり一人だった?」
「ええ、まぁ…。見知らぬ人が一人居ましたが」
「誰だろうな?まぁアイツらじゃねぇ事は確かだけど」
「…どうしたんでしょうね」
 ふと、鶸は黙る。
「鶸?」
「…どうして…」
 声を詰まらせる鶸。
「あれだけ帰れって言ったのに…。帰るって言ってたのに――」
「……」
 急に、どシリアスになった鶸に、縷紅は戸惑う。
「俺もいつか根に行って仇は取ってやる――!」
「鶸?」
 まさかと縷紅は思う。
 自分だって確かな事を聞いた訳ではない。ただ何か事情があっての事だと信じていた。
――そう思っていたかっただけかも知れない。
「…でもアレだな、なんか実感湧かねぇな。五年も別れてたからかな」
「そうですねぇ…」
 それより目の前にある問題を片付けなければ、と思う。
 悲しむのは、その後でいい。
 二人ともしんみりと、それぞれの感慨に耽っていた時。





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