[携帯モード] [URL送信]

RAPTORS

 今思うと、あの微笑は嘘だったのかも知れない。
 最初から殺す気だったのだから――全員。
 では、自分が突き付けた要求は?
 俺を試したのか?
 ぼんやりとそこまで考え、はっと目覚める。
 三人共眠ってしまったが、馬車は動き続けていたようだ。
 見知らぬ景色。
 黒くすべすべした岩肌のトンネル。地面は平らに馴染ませてある。
 恐らく地へと続く道だろう。
 ふと、足に何か重い物が乗っているのに気付く。
 黒鷹の頭だった。
 おいおい、ひざ枕かよと苦笑するが、動かそうとは思わない。
 まぁ、ひざ枕も添い寝も似た様なモンだと一瞬思い、いや違うだろ、そんな問題じゃねぇだろと自分で突っ込む。
 今思うと、何故あんな事を許してしまったのか…
 阿鹿が居なくて、自分がぶっ倒れてなければ、蹴落としていた所だ。
 今更になって、じんわりと後悔の念が出てくる。
 どの道、あの場面で隼に選択権は無かったが。
 全てはこの馬鹿が悪いと、その気持ち良さそうな寝顔を睨んだ。
「…阿鹿殿」
 何なら御者を代わろうかと思い、小声で呼んでみたが。
 返事が無い。
 まさかと思い、――阿鹿は前に座っているのだが――首を傾けて様子を伺うと。
 見事に舟をこいでいる。
 再度苦笑して、まぁ無事に動いているからいいかと思い直し、姿勢を元に戻した。
 実際、黒鷹のお陰で動けそうになかったが。
 しばらく変わらない景色を眺めていたが、そのうち二度寝してしまった。



「はぁやぁぶぅさっ!起っきろー!!」
 …まさかこんな事があるとは。
 自分が、黒鷹に起こされるなんて。
 その上、いつもの黒鷹の様に寝起きにこんなに苦労するとは…
「見てみろよっ!地だぞ!!帰って来たぞ…どこにかは判んねぇけど」
 …うざい。
 一瞬、祖国を見たい、とは思ったが酷く瞼が重い。
――どうでもいい、寝させろ。
 そんな気持ちが優勢となり、眠気も再び彼を包む。
「はやぶさぁ〜」
「おい、いい加減にしろ」
 黒鷹と阿鹿の声が混じったが、もはや隼の耳にそれは届かなかった。
 そして、二人を止める者が居た。
「いいじゃない。寝かしてあげなよ」
 優しい笑みで隼の寝顔を眺める茘枝。
「しかし、茘枝殿…」
 因みに、阿鹿より茘枝の方が上官…だったらしい。
「別に誰かが困る訳じゃないし。大体、隼だってまだ本調子じゃない筈よ?命に別状は無いとは言え、あんな空気の所を通って来たんだから」
 茘枝は言葉にはしなかったが、精神的な疲れも並ではないと思う。
 それにしても。
「天変地異ね〜」
「へっ?」
 何気ない茘枝の一言に、黒鷹はきょとんとする。
「いつもと立場が逆だわ」
「…そう言えば」
 当の黒鷹は気付いてなかったらしい。
「こんな時って、落書きしたくなるなぁ」
 黒鷹がはしゃいで言った。
「肌が紙みたいに白いから尚更ねぇ。…あ、マジックあるよ?」
「まじ?貸して!」
「〜〜って、オイ!お前らっ!!」
 意識の片隅でその会話を聞き付け、一気に眠気も吹っ飛んだ隼。
「あっ起きた」
「つまんねー」
 口々に不平を言う落書き未遂犯二人。
「あ、今のは正当防衛ですからね」
 何か言おうとした阿鹿より先に、隼が釘を差す。
 すると。
「隼」
 黒鷹の声。振り返ると。
 きゅっ
「……てめぇ……」
「うわぁ失敗した!ちょびヒゲにしようと思ったのに!」
 目許から伸びる刺青の先に、黒い線。
「……王子」
「は、はい?」
 妙に冷静な隼に、逆に黒鷹はたじろいた。
「確か今、武器は一つも携行していらっしゃいませんよね…?」
 確かに、根に全部置いて来てしまった。
「明日の朝を、楽しみにしていて下さい」
「……はい。スイマセンでした…」
 茘枝は他人事として笑っている。
 阿鹿は阿鹿で見て見ぬフリをしている。
 隼は恐ろしいくらいの笑みを浮かべ、黒鷹はそれに縮こまる。
 因みに、マジックが何故こんな所に!?というツッコミは、誰もが忘れていた。





[*前へ][次へ#]

8/9ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!