[携帯モード] [URL送信]

RAPTORS

 素手で何とか持ちこたえようとした隼だが、横目に黒鷹の危機を見て、助けようと方向を変えた。
 だが数歩も行かぬ間に行く手を遮られる。
 後方を見れば、やはり囲まれていた。
 どこか手薄な所から片付けねばと、じりりと動いた。
 瞬間、数本の刃が襲って来る。
――と、その時。
 襲ってきた兵が隼を前にしてばったりと倒れた。
 何があったのか、理解し兼ねる隼。
 周りの兵も同様、ばたりと倒れた。
 続いて、隼の前に降って来た物。
 刀。
 それを拾う時、兵士の首に刺さっている物を見つけた。
 針――睡眠薬を塗った――見覚えがある。
 そして頭上から、飽きる程聞き慣れた声が降ってきた。
「黒ちゃん!!」
 そして、どっと大きなものが下りて来た。
「遅ぇよ」
 背後に立った人物を、隼はちらりと見る。
「アンタ達の帰りが遅いから、迎えに来てあげたんじゃん」
 茘枝は涼しげに言った。
 それを機に、彼らの前に立ちはだかる兵は一人として居なくなった。
 だが、質より量が悩みのタネ。
 応援も続々と駆け付けて、キリが無い。
「――黒鷹は?」
 彼を囲んでいた塊を蹴散らしに行っていた茘枝が、隼を振り返る。
 「え?」と目で応えた隼。
「ここだ」
 代わりに答えた低い声。
 兵が動きを止めた。それを受けて二人は刀を下ろす。
 そして、声のあった方を辿る。
 黒鷹は光爛の手中にあった。
 首筋に当てられた鋭い刃――。
「武器を捨てろ」
 隼と茘枝は無言で協議する。
――武器を手放せば同じ事の繰り返しだ。
 でも、と茘枝は言いたげだった。
 その目を逸らした隼は、代わりに光爛を見据える。
「こうなった上は、約束は反故(ほご)ですよね?」
「約束?」
 茘枝が小さく訊いた事を、隼は黙殺した。
 隼と光爛が、お互いを睨み据える。
「私は王子――黒鷹に危害を加えるなと言った筈だ」
 光爛は何も応えなかった。ただ、隼を制しようと、無言で睨む。
 だが隼はそれで制される程、弱小なものではなかった。
「私としてもこんな事は言いたくない。だが約束は破られたのだから――」
 次の一言に、周囲は騒然とした。
「あんたは最低の人間だ――母上」
 茘枝さえもが目を見開いて両者を見た。
 周囲のざわめきをよそに、隼は―そう呼びたくもなかった―母だけを見据えた。
 一方の光爛は、明らかに一瞬動揺した。
 その、一瞬に。
 黒鷹が光爛の鳩尾に肘打ちを喰らわせ、彼女の手中を脱しようとした。
 焦った光爛は、剣を振る。
 それは首を外れ、肩をえぐった。
「黒鷹!」
 隼が叫び、走る。
 黒鷹は体勢を整える間も無く、逃げようとした。
 その背に刃が迫る。
 誰もがもう駄目だと思った。
 ――だが。
 力無く、剣は光爛の手から滑り落ちた。
 驚いて黒鷹が立ち止まり、振り返る。
 その目の前で、彼女は崩れ落ちた。
――針が…。
 光爛の首と腕に、銀色の針が光っていた。
「大分やられたな」
 間近で隼の声を聞いて、やっと痛みを思い出す。
「多分、どっか折れてる…」
「そりゃ骨も折れるだろ。歩けるか?」
 実際、動くのも痛かったが、黒鷹は頷いた。
「――隼」
 顔色の読めない彼を見上げ、
「冥土の土産って…」
「死ぬ前に聞けて良かったな。…詳しい事は後だ」
 兵がやっと、我に返って動き始めた。
「門前に馬車が用意してある筈だから――」
 茘枝が二人に言う。
「そこまで頑張れって?」
「そういう事!」
 黒鷹をかばい、戦いながら進むのは容易な事では無かった。
 広大な城を駆け巡り、何とか門に着く。
 茘枝が扉を蹴破った。
 刹那、隼が激しく咳込む。
「――大丈夫か?」
 隼の腕に支えられていた黒鷹が、逆に支える。
「早く!!」
 茘枝の声にやっと二人は城から出た。
 後方から大軍の迫る中、ぎりぎりで三人は馬車に転がり込む。
 馬車は勢い良く、城を後にした。



[*前へ][次へ#]

5/9ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!