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RAPTORS

 縷紅は何者かの視線に気付き、辺りを見渡す。
 見たところで、姿が無いのは判りきっているのだが。
 相手は素人ではない。
 そっと、剣の柄に手をかける。
 続いて高い金属音が鳴り響いた。
 刀ではない。飛道具――苦無か、短刀か…しかしそれを確認する間は無かった。
 姿さえ現せば対等だ。あとは闘いにおいての実力差が物を言った。
 続く飛道具も剣で払いながら、相手に接近する。
 ある程度寄ってその姿を確認すると、苦無を持った手を投げた小刀で散らし、その隙に剣を突き付けた。
「――縷紅…将軍」
 相手の声を聞いて、彼は相手を見破った。
「姶良(あいら)…?」
「お許し下さい、上層部の命なのです」
 彼女は忍服を拭い、顔を見せた。
「許せと言われても…私は裏切り者ですから。始末に来るのは当然でしょう」
「…最初から、返り討つ気で…?」
「何故?」
「あんなに分かりやすい所に立っていたので…」
「いえ…」
 思わず縷紅は苦笑する。
「水汲みに遣わされただけです」
 つまり、鶸のパシリである。
 姶良は微笑した。
「お元気そうで安心致しました」
「別に、私の近況を見に来た訳ではないでしょう」
「そうですね…さっきは殺そうとしていたのに…」
「本気でしたね?」
「貴方に敵う筈が無いと自覚していますから」
「…それはどうでしょう?」
 言って、縷紅は剣を彼女から離す――と。
 空を掠めた長身の刀。
 それは朱い髪の先だけを切って、力無く下ろされた。
「油断も隙も無い」
 余裕たっぷりに、縷紅が言う。
「いえ…完全に読まれていましたね」
 刀を鞘に戻しながら、姶良は言った。
「今回の暗殺は失敗という事で、今日はおいとましましょう」
「そうして下さい」
 にっこりと笑う縷紅を、悔しさと諦めの混じる表情で振り返る。
「…私は将軍の事、嫌いじゃないから忠告させて頂きます。上層部は貴方達を殺そうと躍起です…くれぐれも油断せぬよう」
「有難うごさいます。――ところで姶良さん?」
 突然の敬称に、姶良は訝しむ。
「もう私は将軍じゃないから…敬語は止めて下さい。年上の方に使われると、擽ったいから」
 姶良はふっと笑う。
「私には随分生意気な上官が居たものね…」
「――お元気で」
「さよなら」
 弟の様な、無邪気な笑顔をもう一度振り返って、彼女は姿を消した。




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あきゅろす。
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