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RAPTORS

 王宮に着き、一つの部屋に通される。
 その中で彼らを待っていたのは、一人の少年だった。
「――隼」
 椅子に座っていた少年は、立ち上がって丁寧に礼をし、彼らを見て笑んだ。
「王子、ご無事そうで何よりです」
「お前…大丈夫なのか!?」
「王宮の空気は清浄ですので」
「そっか…」
「阿鹿殿にもご迷惑をお掛け致しました。申し訳ありません」
 頭を下げながら、ちらと黒鷹を見遣る。
 いつもの悪戯めいた笑みが、そこにあった。
 臣下としての隼の演技を、可笑しがっている笑みだ。
 いつもの事で、気にせず彼は続けた。
「阿鹿殿に部屋をご用意しました。私達の用件が終わるまでそこでお待ち頂きますが、宜しいですか?」
「私は良いが、王子と隼は…?」
「私は王子の側近ですので。異国においては寝ずの番も必要でしょう」
 阿鹿が出て行ってから、黒鷹は爆笑した。
 不審に思った隼が、理由を尋ねると。
「お前が死んでなかったから」
「失礼な奴」
 一瞥で吐き捨てる。当たり前と言えば当たり前だ。
「そうじゃなくって…」
 隼の態度に笑いを苦笑へ変え、少し真剣味を加えて、黒鷹は言った。
「本気で心配してたからさ、お前がケロッとしてるの見て、安心したんだ」
 だって、と続ける。
「五年、同じ事ずっと考えてた。お前が生きてるかどうか。せっかく会えたのに、また…」
 言い切れず、黒鷹は言葉を途切れさせた。
 失う恐怖は時間によって和らぎはしない。顔を見るまでは、心細くてならなかった。
「お前の事だからさ、五年前…あの戦で無茶して…それこそ火達磨の城に飛び込んでたりしないかって…茘枝に無事だって教えられても、俺を安心させる為に言ってんじゃないかって、信じられなかった」
「…贅沢者だな。んな事で気ィ使うか。俺は生きてたし、今回もちゃんと生きててやったよ」
「うん…そうだな。疑ってゴメン」
 隼は鼻で笑って、遠く視線を投げた。
 この五年――考えていた事はそう変わらない。
「…お前を助ける為に生きてんだ、俺は」
「え?…何その超カッコイイ台詞」
「阿呆か!」
 思いっ切り隼は主を睨みつけ、黒鷹はそれでもニヤニヤと笑う。互いに照れ隠しだ。
「少しは俺に感謝したらどうだ?もし俺が死んでたら、お前ら一生あの牢の中だぞ」
「あれって、隼が出してくれたんだ?」
「他に誰が、お前を出してやろうって思うんだ?」
「だって、総帥って人が…」
「俺が直接、総帥に頼んだんだ」
「え、じゃあお前、もう総帥に会ったの!?」
「…まぁな」
 隼の表情が曇る。
「どうか、した?」
「…別に」
「別にじゃ済まない」
「黒鷹」
 真正面から視線を捕えられて、黒鷹は逆に少したじろいた。
「お前に隠し事をするつもりは無い――でも、今は話せない」
「いつになったら話す?」
「さぁ?」
 応えは素っ気ない。
「お前の冥土の土産くらいなら調度いいんじゃねぇ?」
「はぁ?エンギ悪いな」
 勢い良く布団に飛び込み、仰向けになったまま黒鷹は言った。
「それならさ、お前、俺の死に目に居ろよ」
「お前の方が縁起悪いだろ」
「絶対だぞ」
 強く言われて、隼は「解った」と頷くより無かった。





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