RAPTORS 8 王宮に着き、一つの部屋に通される。 その中で彼らを待っていたのは、一人の少年だった。 「――隼」 椅子に座っていた少年は、立ち上がって丁寧に礼をし、彼らを見て笑んだ。 「王子、ご無事そうで何よりです」 「お前…大丈夫なのか!?」 「王宮の空気は清浄ですので」 「そっか…」 「阿鹿殿にもご迷惑をお掛け致しました。申し訳ありません」 頭を下げながら、ちらと黒鷹を見遣る。 いつもの悪戯めいた笑みが、そこにあった。 臣下としての隼の演技を、可笑しがっている笑みだ。 いつもの事で、気にせず彼は続けた。 「阿鹿殿に部屋をご用意しました。私達の用件が終わるまでそこでお待ち頂きますが、宜しいですか?」 「私は良いが、王子と隼は…?」 「私は王子の側近ですので。異国においては寝ずの番も必要でしょう」 阿鹿が出て行ってから、黒鷹は爆笑した。 不審に思った隼が、理由を尋ねると。 「お前が死んでなかったから」 「失礼な奴」 一瞥で吐き捨てる。当たり前と言えば当たり前だ。 「そうじゃなくって…」 隼の態度に笑いを苦笑へ変え、少し真剣味を加えて、黒鷹は言った。 「本気で心配してたからさ、お前がケロッとしてるの見て、安心したんだ」 だって、と続ける。 「五年、同じ事ずっと考えてた。お前が生きてるかどうか。せっかく会えたのに、また…」 言い切れず、黒鷹は言葉を途切れさせた。 失う恐怖は時間によって和らぎはしない。顔を見るまでは、心細くてならなかった。 「お前の事だからさ、五年前…あの戦で無茶して…それこそ火達磨の城に飛び込んでたりしないかって…茘枝に無事だって教えられても、俺を安心させる為に言ってんじゃないかって、信じられなかった」 「…贅沢者だな。んな事で気ィ使うか。俺は生きてたし、今回もちゃんと生きててやったよ」 「うん…そうだな。疑ってゴメン」 隼は鼻で笑って、遠く視線を投げた。 この五年――考えていた事はそう変わらない。 「…お前を助ける為に生きてんだ、俺は」 「え?…何その超カッコイイ台詞」 「阿呆か!」 思いっ切り隼は主を睨みつけ、黒鷹はそれでもニヤニヤと笑う。互いに照れ隠しだ。 「少しは俺に感謝したらどうだ?もし俺が死んでたら、お前ら一生あの牢の中だぞ」 「あれって、隼が出してくれたんだ?」 「他に誰が、お前を出してやろうって思うんだ?」 「だって、総帥って人が…」 「俺が直接、総帥に頼んだんだ」 「え、じゃあお前、もう総帥に会ったの!?」 「…まぁな」 隼の表情が曇る。 「どうか、した?」 「…別に」 「別にじゃ済まない」 「黒鷹」 真正面から視線を捕えられて、黒鷹は逆に少したじろいた。 「お前に隠し事をするつもりは無い――でも、今は話せない」 「いつになったら話す?」 「さぁ?」 応えは素っ気ない。 「お前の冥土の土産くらいなら調度いいんじゃねぇ?」 「はぁ?エンギ悪いな」 勢い良く布団に飛び込み、仰向けになったまま黒鷹は言った。 「それならさ、お前、俺の死に目に居ろよ」 「お前の方が縁起悪いだろ」 「絶対だぞ」 強く言われて、隼は「解った」と頷くより無かった。 [*前へ] [戻る] |