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RAPTORS
12

 それは何時間経った頃だろうか。
 時を知らせる物も、日の光も無い。知る術が全く無いのだ。
 黒鷹は、鈴寧に、隼と出会ってから今までの思い出を語っていた。
 少しでも、失った時間を埋められれば良いと思って。
 鈴寧は、本当に楽しそうに、嬉しそうに聴いてくれた。それが黒鷹にも嬉しかった。
 そんな時だった。
 扉が開いたのは。
 それは突然、乱暴な音を発てて。
 はっと黒鷹は身構えた。
「約束の時間だ」
 入ってきた、四人の男。
 針は三本――一つ、足りない。
「母は…光爛は、要求に応じなかったのですね?」
 凜と、鈴寧は問う。
 黒鷹は祈る様な気持ちで、意識をその答えに向けた。
「…残念だが、貴女の母は貴女の事を見捨てる様だ」
「ええ――分かっていました」
 男達が彼女の細い腕を掴む。
「どうする気…!?」
「最後の脅しに使う。来い」
 連れ去ろうとする、その時。
「ちょっと待ったあ!!」
 振り向いた男の首に、針が。
「――ッ!?」
 追い撃ちをかけるように、顔面に椅子が飛んできた。
 正確には、寝台から椅子を掴んだまま飛び掛かった黒鷹が、思い切り顔面を殴ったのだ。
 更に倒れる男を踏み台にしながら、後ろに居る男達に針と椅子を投げた。
 針の薬が効くまでの数秒間、男達の反撃をひらりとかわしながら、倒れている最初の男から刀を拝借する。
「な…何をした…!?」
 薬が回った二人が倒れるのを尻目に、椅子が直撃した鼻を押さえる男の反撃を刀で受ける。
 だが次の一撃の前に、黒鷹は男の脇へ身を滑らせ、後首目掛けて峰討ちにした。
 くぐもった声と共に、男は気を失う。
 四人の男を揃って気絶させた少女は、不敵な笑みを浮かべて言い放った。
「さ、逃げようぜ!」
 どうやらここは地下らしく、土に囲まれた通路が続いている。
 走ると、いくらも行かないうちに、人の壁によって行く手を阻まれた。
「こりゃ強行突破だな!!」
「私も手伝うわ!」
 黒鷹と同じく刀を奪っていた栄魅も、敵に向かって構える。
「じゃあ鈴寧を頼むな!」
 わっと混乱する通路。
 栄魅に鈴寧を任せる事で、黒鷹は前へ前へと攻めて行ける。
 口元に笑みさえ浮かべ、余裕余りある。
 久し振りに刀を振るう。
 それが、何より、自分らしいと感じて。
 「はっ!」と声を上げ、誰に言うでもなく叫んだ。
「悩んでても仕方無ぇな!!俺はこうやって、道を切り開くだけだ!!」
 こうして闘う横には、いつも隼が居た。
 それは今も――そして、これからも、変わらない。
 目指す先、見たい世界は、同じなのだから。
 二人で、そして仲間達と共に、切り開いてゆく。
「黒鷹…ちょっと、黒鷹!!」
 栄魅の呼ぶ声。
「んあ?」
「それ根の軍の人…あ」
 忠告も空しく、黒鷹の振り下ろした刀は、兵士の一人を気絶させていた。
「…え、あれ?…じゃあ…」
 倒れた兵士を見れば、確かに先刻まで相手にしていた者と様子が違う。
 きちんとした甲冑を身に付けている。
 そして、その後ろに続いている人々も。
 黒鷹がきょとんとしていると、その奥から笑い声が響いた。
「お前らしいな。全く」
「…光爛!!」
「救援を、と思ったが…必要無かった様だな」
 いつもの様に、兵士と同じ甲冑を身に付けた光爛が、前に進み出る。
「よくここが分かったな…!鈴寧を助けに来たんだろ?」
 彼女は微笑み、答えた。
「お前を連れ去る者を目撃した民が居てな。…お陰でここを突き止められた」
「あ、あぁー。俺、連れ去られて良かった…のかな…」
 結果オーライとも言うべきか。
 少し苦味は有るが、とにかく事態は期待以上だ。
「茗爛(めいらん)…否、その名は捨てたのだったな」
 光爛が鈴寧に向き、言った。
「そなたは私を母と思っていない…それも当然だろう。本当に、ここまで来るのが遅れてしまって…済まなかった」
 十八年かけて、ここに来た。
 開き、また歩み寄る、母娘の距離。
「何の為に、ここへ?国民の支持を得る為ですか?」
「鈴寧!?」
「…いい、黒鷹。そう思われても仕方のない事を、私はしてきた…」
「ええ。貴方の所為で父は死にました。そして、隼も――」
「違う!!」
 堪らなくなって、黒鷹は声を張り上げた。
「鈴寧のお父さんは確かに気の毒だったと思う。でも、隼は違う!誰かの所為じゃねぇ、自分で選んだんだ!!アイツは言ったんだ…“地に捨てられた過去を、変えたいとは思わない”って…」
「……!」
「だから、鈴寧。光爛を恨んだって仕方ないんだよ…!!恨みは誰も幸せにしない」
 鈴寧は言葉を失い、俯いた。
 そんな娘に光爛は歩み寄り、肩にそっと手をかける。
「済まなかった…。お前達をこのような事に巻き込みたくなくて、私の元から離れて貰ったのにな…。こうなっては、その意味も無いか…」
 鈴寧は、はっと光爛の顔を見上げた。
「その為に…別れたのですか!?」
 光爛は頷く。
「あの時、生まれたばかりだった崔爛(さいらん)は手放せず…可哀相な事になってしまったが…」
「でも隼は光爛を恨んではいないよ。今はね」
 黒鷹の言葉に、二人は頷いた。
「助けて頂き…ありがとうございます、母上」
「茗爛…」
 二人の様子を見ていた栄魅が黒鷹に寄って来て、意味深な視線を送る。
「何?」
「また一人、アンタの魔法にかけられちゃったわね」
「…魔法って…違うし…」
 栄魅は笑うと、ふうと長い息を吐いた。
「良いんじゃない?世界を変えるんでしょ?なら人の気持ちを変える才能があってもおかしくないわ」
「俺、そんなスゴイ事してるかなぁ…」
 戸惑う表情を笑い、「そう言えば」と切り出す。
「書状は?」
「…!」
 はたと凍り付いたかと思うと。
「やっべえぇぇ忘れてたァァァ…!!!」
 周囲の人々を薙ぎ倒さん勢いで駆け出した。
「全く…相変わらずと言うか…」
「書状とは?」
 呆れている栄魅に光爛が問う。
「ああ、何か貴方宛の書状を預かって、届けに来たって…。どうも捕われた際に奪われたらしいの」
「これの事か?」
 言いながら光爛が懐から差し出す。
「ここを探索している際に見つけたが…私宛だから取っておいた」
「…間違いないわね」
 栄魅の声に溜息が混じる。
 通路には、物を投げるような音と、「無い、無い、どこだよぉ!?」という悲痛な叫びが響いていた。





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