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RAPTORS


 軍議の始まる数時間前。朝日が地平線を漸く離れた頃。
 縷紅は帰陣していた茘枝と会った。
「…ほんと、ゴメン」
 珍しく謝る茘枝。
「あの子の尾行くらい簡単だと思ってた私が悪かった。絶対、見逃しちゃいけなかったのに…ホント、ごめん」
「いえ…良いんです。行き先は分かってますから」
「天に戻ったんでしょ?…でもどのルートを使ったのかしら。門を先回りして見張ってたけど、人影すら現れなかった」
 縷紅は沈黙する。口元に手を当て、何か考えている。
「…他に…」
 思い当たる節。だが、この線ではない事を願いたい。
「何か、気配を感じたりは…?」
「別に、何も…?寧ろ、無さ過ぎた、かな…」
「無さ過ぎた?」
「うん、私が必死で気付かなかっただけかも知れないけど。夜の森ならもっと色んな気配がある筈なのに、昨夜はなんだか空気が張り詰めてて、何も…」
 ――もう、間違いない。
「彼が…手を貸しましたね…。きっと…」
 深い溜息。
「大丈夫?」
 茘枝の問いに頷く。
 何か、絶望に近いもので眩暈がするようだ。
「…最初から協力していた…証拠でなければ良いのですが…」
 密かに緑葉から情報を得、天と繋げるとしたら彼以上の適任は居ないだろう。
 だとしたら、今回の件も彼の指示である可能性は高い。
「貴女はどう思いますか?緑葉の行動の真相を…」
「さあ…何とも。私より貴方の方があの子の事詳しいでしょ?まあ、良い子って事は言えるけど」
「…私達の見ていた彼は、演技ではないと?」
「そう…思うわ。隼はなんて?」
「…差し違えてでも緇宗を仕留めに行ったのだと…」
 裏切りではない。皆が言う。
 縷紅もそう考えたい気持ちはある。だが、信じられない。
 自分自身が、裏切ったから。
「…私は彼にもう一度会わなければいけない…真意を、聞かなければ…」
「貴方自身の為に?」
 縷紅は頷く。
 過去に、向き合う為に。
「隼には助ける事を約束しましたが…それでも疑いを持つ私は、狡いのでしょうね」
「この国の為、でしょう?」
「……」
「私は貴方の判断に従います」
 迷いも、躊躇いも、全て見通した上で茘枝は告げた。
 縷紅もそんな彼女の真意が分かっている。だから信頼できる。
「お願いがあります」
「何なりと」
「この後の軍議で天への進軍が決まるでしょう。…反対はされるでしょうが、恐らく決まると思います」
 鶸の事だ。何としても自分の考えを貫き通すだろう。
「皆が天に入る前に、私は密かに先回りしようと考えています。少しでも戦力を減らしておく為にも。――ついて来て、くれますか?」
 見透かした目が、微笑んでいる。
「緑葉を探すの?緇宗を倒すの?」
「…無論、緑葉の無事の確保が最優先です」
「余力が有れば――いえ、緑葉さえ無事なら、緇宗に?」
「会いたいのは本音です」
「会って何としても追い込みたいんでしょう?私は会わなければ良いと思ってる」
「何故?」
「緇宗の前なら、貴方は命をも惜しいとは思わない。違う?」
 縷紅は彼女を見つめる。
 真っ直ぐな目が、覚悟を語っている。
「…だから嫌。勿論、一緒に行くけど」
「ありがとうございます」
 素直に礼を言うが、表情は固い。
「お察しの通り、これは命懸けの行動です。だから貴女が危険な状況だと判断した時には、逃げて下さい。私の事など構わずに」
「そんな事出来る訳ないでしょ!?貴方を助ける為に、私は――!!」
「貴方にお願いするのは緑葉の無事の確保です」
 冷淡に言い切られて、茘枝は言葉を失う。
「…分かって下さい」
 哀願されて、逆に彼女は拗ねて見せる。
「こっちの気持ちも分かってよね」
「…スミマセン…」
「まあ貴方に女心を理解しろとは言わないけど。要するに、そんな状況にさせなきゃいいのね?」
 呆気に取られる縷紅。
 くすりと笑う茘枝。
「…もうすぐ、終わるかな」
 彼の硬直を解く為に、茘枝は話題を変えた。
「貴女はどうしますか?この戦が終わり、平和な世が来たら」
「それは…」
「?」
「ちょっと…こっちから言わせないでよ!!!」
 平手打ちの音が響き渡った。





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