RAPTORS
2
森の中の夜は暗く、長い。
楜梛が去って何時間経っただろうか。否、何時間も過ぎてはいないかもしれない。
このまま明ける事が無いのではないかと思えてくる、夜。
乾いた咳。
「――隼」
まだ、生きている。二人とも。
闇の中に細い安心感と、恐怖を抱きながら。
いずれ来る朝は、希望か、絶望か――
乱れた呼吸と妙に静かな森の音を聞きながら、緑葉は待つ。
もう二度と会えないかもしれない光を。
目を閉じる。
木に凭れて座る身は、激戦のお陰で酷く疲労している。
不安で眠れる訳ではなかったが、目を開けているのが辛くなってきた。
やがて思考も蕩け始める。
起きているのか、眠っているのか、その狭間に陥った時。
呼ばれた――気がした。
懐かしい声で。
「姉貴?」
はっと目覚めて呼び返す。
心のどこかで期待していた姿がある筈もなく。
空が、白んでいる。
「……」
その事実が何だか信じられなくて、しばらく息を呑んで天を仰いだ。
穏やかな朝。
置かれている状況も忘れてしまうくらいに。
草を踏む音。
近付いてくる。
「っ――!!」
慌てて剣を取り、立ち上がって構えた。
音は止まった。
――守れるだろうか。
自分だけならともかく、隼も居る。敵に見つかったらかなり苦しい戦いとなる。
心臓が早鐘を打つ。鼓動が聞こえそうなくらいに。
「私よ」
耳に届いたのは、待ち詫びた、声。
木陰から現れた姿は、疑いようもない。
茘枝だ。
「お待たせ。迎えに来たわ」
緑葉は剣を鞘に戻して彼女に駆け寄った。
「迎えに…という事は――!!」
茘枝はにこりと笑顔を向ける。
「勝ったの」
「…良かったぁ…!」
心の底からの声に、笑った。
「すっかり地の人ね。隼は無事?」
「相変わらずですけど…」
「早く連れ戻してあげましょう。一番会いたい人が待ってるから」
緑葉は頷く。
ふと、光を感じて横を見た。
朝日が昇る。今日も、また。
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