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RAPTORS
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「眠った…んですか?」
 恐る恐る緑葉は問う。
「全く…こんなに深刻な事態になっているとはね…。もう少し早く気付くべきだった…」
 茘枝は誰にともなく呟く。
 そして立ち上がり、緑葉に向き直った。
「隼は君の事を信頼しているのね」
 突然の言葉に緑葉は戸惑う。
「そんな事無いですよ…たまたま俺が姶良の弟だったから…」
「それだけじゃない、きっと」
 茘枝は強く言って、緑葉の手を取った。
「隼は自分の弱みを見せる覚悟で、君をこの戦いに誘った…そうでしょう?私達にも弱い部分を見せようとしないのに。今でこそ国や種族を越えた世界を作る事を理想としているけど、隼自身がそれを誰よりも壁としてきた。つい最近まで天の人間を恨み復讐しようとしていた。君のお姉さんでさえ信じきれなかった部分はある筈。…それを、君が解いてくれた。天の人間である、君が」
「……」
「私からもそれを感謝するわ。…そして、今から…この子を、頼みます」
「――それは…!?」
「私は本陣の様子を見てくる。場合によっては参戦するわ。ただ、この子の言う通り、向こうの戦いも厳しい…。私もまた君達の許へ戻れるかは定かじゃない」
「――」
「だから、なるべく早く戻るつもりではあるけど、しばらくここに潜んでいて、もしも敗戦が判ったなら…二人で、生き延びて。お願い」
「分かりました…」
 緑葉の手を放し、一歩下がって、笑んだ。
「無茶を言ってごめんね。でも、何も保証出来ない戦なの…」
「分かって…います」
 理解していても尚、地に味方するのを、他人ならば愚かだと笑うだろう。
 解ってくれなどと言うつもりは毛頭無い。
 その理由。
 彼らを通して知った、自らの中の大切な物を守りたいという想い。
 失いたくないもの。
「お願いします」
 茘枝はもう一度言って、振り向きもせず駆け出した。
 その背が見えなくなるまで、緑葉はそこに立ち尽くしていた。
――本当は。
 そんなに誉められた物ではないだろう。
 流れの末に、こじつけた理由でしか無いかも知れない。
 自分なんて、そんなものだ。
 ただ、憧れだけで。
「名実共に裏切ったな」
 ふいに、声がした。
 度肝を抜かれた。
 後ろの木に背を持たせ掛けて立つ人物。楜梛。
 刀に手をかける。
 敵なのか。
 まだ、味方なのか。
「こっちはやる気無いんだ。穏便に話そうや」
 楜梛は両手を挙げ、ひらひらと振る。
 ゆっくりと、刀から手を離す。
「何を話すと言うのですか?」
 目を鋭くして問い掛ける。
「あんたが何をしたいのか、だよ」
「……」
「全く、縷紅と言いお前と言い、何を考えているのやら…」
「あなたには解らないでしょう。利を追う国に加わっている限りは」
「そういうお前には解ってんのかい?」
 見透かした様に笑う。
 この男こそ、何を考えているのか計り知れない。
「カッコ付けてみたはいいが、考えナシだったなんてお笑いだな。そのダチに何を吹き込まれた?」
「違う!!俺の意思だ!!隼は俺を救ってくれた…それに報いたい…それだけだ」
「コドモだねぇ。いや、純粋でよろしい事で」
「何が言いたい…!」
「友情は生きる糧にゃならんよ。一時の幻惑に過ぎんさ」
「…アンタらしくもない台詞だな」
「お前の上司が裏切るからさ」
「縷紅様を、恨んでいると?」
「もうアイツは救えない。そうと判ったら割り切るしかない」
「救えない?」
 “それはどういう意味か”と睨む。
「赤斗が仕留めに出たぞ。今の力量ならどちらが勝つか…判るだろう?」
「さぁね?俺なんかには判りませんよ」
 ふっと、楜梛の目が真剣なものになる。
「地に勝ち目は無い。今晩、お前達は生きる場所を失う」
「まだ決まってはない」
「強がっても後悔するだけだ。今のうちに天に戻れ。お前だけでも」
「そんな事、もう出来る筈が無い。する気も無い」
「お前の友人は本当にそれを望んでいるか?」
「…何?」
「お前が生き延びる為に、自分の命を差し出した――その覚悟を裏切る気か?」
「あんたに何が分かる」
「まだお前には天に戻って生き延びる手段があるという事さ。その首を貰い受ければ、な」
 楜梛の言わんとしている事が見え、緑葉は言葉に詰まった。
 それは怒りか。それとも迷いか――
「……まさか」
 全てを捨てて、生きていたいなどと。
 考えてはいけない――
「馬鹿馬鹿しい…」
 だが、それが隼の望んだものならば?
 このまま二人とも死ぬとしたら?
 眠る顔を見て、どきりと鼓動が高鳴る。
 殺して生きるか。
 死を待つか。
 ――否。
「あんたの口車には…乗らない…」
「それでいいのか?」
「――消えてくれ!!」
 哀れむ様な目で見遣って、闇に溶けた。
 それを見届けてから、緑葉は脱力してその場に座り込んだ。
「これで…いいんだよな…」
 返答の返らない問い掛け。
「お前は、生きて帰るつもりなんだよな…。それを、俺が奪うなんて、許されない…」
 一瞬でも迷った自分にぞっとする。
 ただ、本当にこのまま敗戦、そして死が待つのなら…
 不安が胸に渦巻く。
 生きていたいのではない。死が、怖い。
「お前は両方受け入れてるのにな…。俺は…ダメだな…」
 死を覚悟した上で、生きようとする。
 死を見たくないから、他の命を奪う。
 戦はこの二つのせめぎ合いなのか。
 夜が更ける。
 戦いと死の闇が、濃さを増す――





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