RAPTORS
5
早朝。
まだ寝静まっている陣の中を、伝令が走る。
それからしばらくして。
隼は射し込んだ光で目覚めた。
はっと、体を起こす。
縷紅が扉を開けた為の光だ。
「――縷紅」
「動きました」
「……!」
するりと寝台を下りる。
ぱたぱたと駆け寄る音。
「大丈夫ですか?」
「ああ。すぐ発つ」
髪を束ね、刀を装着し。
「隼っ…縷紅様…っ!」
緑葉が扉を潜る。
「聞きましたか?」
「はいっ…!」
「行くぞ」
緑の瞳をしっかりと受けて。
深く、頷く。
「支度は?」
「整えて来ました。すぐに行けます」
隼の支度も整った。
旦毘と朋蔓も、その時駆け付けた。
「行くのか?」
様子を察して旦毘が問う。
隼は頷く。
「気を付けろ…。こっちに集めているとは言え、敵のど真ん中だ」
「分かっている」
旦毘は隼の手を取って、更に言った。
「本当なら俺が行く所だったが…。頼む、帰って来てくれ。…頼む」
隼は、取られた手を、逆に旦毘の手の上に置いた。
「…心配するな。縷紅を…頼む、な」
微笑して、扉へと向かう。
朋蔓を目が合う。
お互いに、頷き合った。
「…縷紅」
最も出入口に近い所で。
「この戦いは苦しい…。砲撃が無いとは言え、ここを崩されたら終わりだ」
緑と紅の瞳が、見つめ合う。
何かを確かめる様に。
「この国を…俺達の未来を、守ってくれ。頼む」
防衛戦――半減された兵力。総当たりで潰しにかかる敵。
希望は薄い。それでも。
「勝ってくれ…!」
縷紅は頷き、言った。
「貴方を裏切りはしません」
隼は、少し複雑な笑みを浮かべる。
「必ず、また会おう」
「ええ」
すっと、どちらからともなく差し出された手。
しっかりと、取り合って。
――無事で。生きて。
互いに。
「行くぞ、緑葉」
「緑葉、あなたもお気をつけて」
「あっ…はい!頑張ります!」
先に歩き出した隼を気にかけつつ、緑葉は縷紅達に頭を下げた。
そして、小走りに追いかける。
離れていく二つの背。
朝霧の中に入って行く。
それを、ずっと、見送る。
「…まさか、こんな事になるとは…」
ぽつりと、視線はそのままで、縷紅は言った。
「え?」
「隼と…初めて出会った時が思い出されて」
刃を向け合っていたあの日から。
「よく…ここまで来れたな、と…」
「――」
「運命とは…人とは、不思議な物ですね」
「ああ…」
手放したくはない。
出会いから、あの日から築き上げた、何より大切なものを。
光。
手を止めた物の本当の正体は、
彼の内なる光だと――
そう思えてならない。
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