[携帯モード] [URL送信]

RAPTORS


 早朝。
 まだ寝静まっている陣の中を、伝令が走る。
 それからしばらくして。
 隼は射し込んだ光で目覚めた。
 はっと、体を起こす。
 縷紅が扉を開けた為の光だ。
「――縷紅」
「動きました」
「……!」
 するりと寝台を下りる。
 ぱたぱたと駆け寄る音。
「大丈夫ですか?」
「ああ。すぐ発つ」
 髪を束ね、刀を装着し。
「隼っ…縷紅様…っ!」
 緑葉が扉を潜る。
「聞きましたか?」
「はいっ…!」
「行くぞ」
 緑の瞳をしっかりと受けて。
 深く、頷く。
「支度は?」
「整えて来ました。すぐに行けます」
 隼の支度も整った。
 旦毘と朋蔓も、その時駆け付けた。
「行くのか?」
 様子を察して旦毘が問う。
 隼は頷く。
「気を付けろ…。こっちに集めているとは言え、敵のど真ん中だ」
「分かっている」
 旦毘は隼の手を取って、更に言った。
「本当なら俺が行く所だったが…。頼む、帰って来てくれ。…頼む」
 隼は、取られた手を、逆に旦毘の手の上に置いた。
「…心配するな。縷紅を…頼む、な」
 微笑して、扉へと向かう。
 朋蔓を目が合う。
 お互いに、頷き合った。
「…縷紅」
 最も出入口に近い所で。
「この戦いは苦しい…。砲撃が無いとは言え、ここを崩されたら終わりだ」
 緑と紅の瞳が、見つめ合う。
 何かを確かめる様に。
「この国を…俺達の未来を、守ってくれ。頼む」
 防衛戦――半減された兵力。総当たりで潰しにかかる敵。
 希望は薄い。それでも。
「勝ってくれ…!」
 縷紅は頷き、言った。
「貴方を裏切りはしません」
 隼は、少し複雑な笑みを浮かべる。
「必ず、また会おう」
「ええ」
 すっと、どちらからともなく差し出された手。
 しっかりと、取り合って。
――無事で。生きて。
 互いに。
「行くぞ、緑葉」
「緑葉、あなたもお気をつけて」
「あっ…はい!頑張ります!」
 先に歩き出した隼を気にかけつつ、緑葉は縷紅達に頭を下げた。
 そして、小走りに追いかける。
 離れていく二つの背。
 朝霧の中に入って行く。
 それを、ずっと、見送る。
「…まさか、こんな事になるとは…」
 ぽつりと、視線はそのままで、縷紅は言った。
「え?」
「隼と…初めて出会った時が思い出されて」
 刃を向け合っていたあの日から。
「よく…ここまで来れたな、と…」
「――」
「運命とは…人とは、不思議な物ですね」
「ああ…」
 手放したくはない。
 出会いから、あの日から築き上げた、何より大切なものを。
 光。
 手を止めた物の本当の正体は、
 彼の内なる光だと――
 そう思えてならない。




[*前へ][次へ#]

5/11ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!