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RAPTORS


 日が落ちかけている。
 まだ軍議は続いている。
 早急に結論を出さねばならない。
 だが、八方塞がりの状況に、打開策は生まれない。
 時ばかりが過ぎていく。
「砲撃さえ無ければ打つ手もあるものを…」
「そんな事を言っても始まらん」
「だが、砲撃の前に我々はどう立ち向かえば良い」
「そうだ。士気も上がらん。兵が減っていくだけ…」
「戦のしようが無い。何とかアレを止める方法は無いのか」
「誰かが止めに行くか?」
 旦毘が言った言葉に、話し合いは急に止まった。
 皆、一様に難しい顔をしている。
「…無茶だ」
「敵の真っ只中だぞ」
「自殺行為も同然だ」
「でも、アレを止めなきゃ総崩れだ。皆滅ぶしかない」
「では旦毘、お前は行く覚悟が有るのか!?」
「行けと言われれば、しゃーないね。俺も東軍の人間だ。勝利の為なら死ねる」
 あっさりと旦毘は答えた。
 そして、周囲を睨め付ける。
「アンタ達は?それだけの覚悟があるか?いくら俺でも、一人じゃ無理ってヤツだぜ?」
 大人達は口ごもる。
 旦毘は軽く溜息を吐いた。
「…なら、俺が行くよ。一人でも」
 視線が集まる。
 自分ではない安堵もあり、哀れみもあり、無茶だと言う嘲りもあり。
「成功は保証できねぇぞ?」
 それらを全て受け取って、彼は言った。
「待て、旦毘」
 朋蔓が口を開く。
「止めてくれるのか?叔父さん……だけど他にどうしようも無ぇよ」
「他に何か手はある筈だ。考える。だから、お前を一人犠牲には出来ん」
「…嬉しいけど。手なんか、無いって」
 虚ろに笑う。
「そんな事は無い。焦るな。今お前を失っては、あまりに深い痛手になる。…縷紅は誰が支えてやるばいい!?」
「一人で大丈夫だよ。アイツは強いから」
 がたりと、椅子を引いて。
「これで、漸くお開きだな、この軍議。…疲れたなぁ」
 立ち上がり去ろうとする背。
 朋蔓は止める言葉を探している。だが、見つからない。
 旦毘が出入口に手をかけようとした時。
 扉は勝手に開いた。
「…ビックリしたぁ…」
 一人でに開く筈の無い扉が開いた事と、そこに縷紅が立っていた事に。
「その話…少し待って頂けませんか?」
「え?」
 問い返そうとした旦毘よりも早く。
「縷紅…貴様、今までどこに逃げていた!!」
「そんな事で良いと思っているのか!?」
「責任を取れ!!全て貴様のせいだ!!」
「てめえらいい加減に…!!」
 旦毘が怒鳴り返そうとした時。
 縷紅は、服を拭い喉元を露わにした。
 そこには、傷。まだ生々しい。
 刺し損ねた跡。
「…こうやって逃げていました」
 絶句する一同の前で、縷紅は告げた。
 服を元に戻し、傷を隠す。
「逃げようとした事は、悔い改め、謝罪します。責任は今からいくらでも取る…。しかしその前に、今の話、少し待って下さい」
 何か言おうとする旦毘や朋蔓を制して、縷紅は後ろに視線を投げた。
 そこには隼と緑葉が居る。
「隼から…話が」
 言って縷紅は横に控えた。
 何か言いたげな目に、にこりと微笑み、隼に視線を移す様に促す。
 隼は毅然として口を開いた。
「今の話――砲撃を止めに行く役目は、俺が果たす」
 場は騒然とした。
「子供にこんな重大な仕事を任せる訳には…」
「ガキの出る幕じゃない!!遊びじゃないんだぞ」
「根の人間ふぜいに何が出来る!?」
 縷紅の件でまだ溜飲の下がらない連中が、気炎を吐く。
 根の子供なんかに――その合唱となっている。
「私の隊から行かせる方がマシだ」
「いや、私の所に適任が居る、奴を行かせよう」
「いや私の所から」
「いやいや――」
「いずれにせよ根の者に任せるよりマシだな」
「そうそう、根の者よりは――」
 旦毘の頭の中で、何かが切れた。
「この腰抜け共が――!!」
 連中に掴みかかろうとするのを、隼自身が片手で止めた。
 腕を掴まれた旦毘は、燃えるような目を向ける。
 返ってきたのは、冷ややかな緑。
 その目で、隼は一同を見回す。
「お言葉ですが」
 前置いて、睨み付ける。
「根の人間だから、というのは旧時代の悪しき風習です。そんな物はこの戦によって葬り去るべき。地と根の人間に何の違いがあるか、貴方がたにお分かりになりますか?想像と偏見のみで物を言う者に、真実など見えるとでも?」
 淡々と反論する。その奥に、どれだけの感情が渦巻いているか――睨む瞳が物語っている。
 生きてきた分味わってきた、真実がある。そして、理不尽さへの怒りが。
 隼は縷紅を横目に見た。
「天の人間もまた同じ事。種族の違いだけで争ってきた愚かな歴史を断ち切る為の戦として、俺達は今日まで闘ってきました。それをどうか御理解頂きたい。手柄を立てる事しか眼中に無い頭でも、お分かりにならねば困ります」
「何ぃ!?」
「愚弄する気か!!」
 挑発に当然息巻く者が出るが、隼は動じない。
 寧ろ、愉快そうに冷笑を浮かべて、完全に見下した目で、そんな連中を見やる。
「私の申す事がお分かりになれないのなら、以下は刀で語って差し上げますが――如何に?」
「ちょ…隼」
 流石にそれは…と、旦毘でさえ困惑の目を向ける。
 隼はさらっと無視して、挑発に乗った一人を――瞬く間に峰打ちにした。
 一瞬の事で、後に続く者は唖然としている。
「――納得頂けたなら、そのまま御退場願いましょうか。これ以上の軍議は必要ないでしょう、朋蔓殿?」
 朋蔓が頷くが早いか、男達は逃げる様に出て行った。





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