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RAPTORS
12

 駆け付けると、陣の外の林で、刀を構える隼が居た。
「――隼!?」
 縷紅の呼び声も届かない程に集中している。そこには踏み込めない何かがあった。
 とっ、と踏み出したかと思えば。
 瞬く間に、それまで木に付いていた枝や葉が辺りに舞った。
「ずっとこの調子です。止めても聞かなくて…」
 途方に暮れた様に緑葉は言う。
 頷いて、何を思ったか、縷紅は前に踏み出した。
 隼の“場”と化していた境界線を、軽々と越えて。
「療養生活が物足らなくなりましたか?」
 冷たい瞳が初めてこちらを向く。
「――素振りではつまらないでしょう」
 自分の剣を抜く。
「…縷紅様…!?」
「お相手しましょう」
 隼が、縷紅が、互いに刀を向けて構える。
 緑葉は戸惑うばかりだ。とにかく見守るしかない。
 さっと隼が動いた。
 縷紅も合わせて動く。
 隼の一撃をかわし、後ろを取る。
 横に薙いだ剣は、隼が今居た場所を切り裂く。
 後ろに跳んだ隼は正面から斬りかかる。
 体勢を立て直す暇の無かった縷紅はそれを紙一重で避け、次の隼の一手を剣で受けた。
 ぎり、と音を発てて刃が交わる。
「それ、左手だろ?」
 膠着状態になった時、隼が無表情のまま口を開いた。
 縷紅が剣を持っているのは、利き手とは逆の左手。右腕は怪我の為、自由が利かない。
「ナメてんのか?」
 冷笑すら浮かべて隼が言った。
 二つの鋼が離れる。
「病人に言われる筋合いはありませんね」
 涼しい顔で縷紅は応じた。
「調度良いでしょう?」
 隼が真顔に戻って構え、もう一度斬りかかった。
 縷紅も応じる。
 ハラハラしながら緑葉は見ていた。
 稽古ではない。真剣での勝負だ。
 一歩間違えれば大怪我にも繋がる。――怪我で済めばまだ良い方だ。
 なのに、二人とも全く手加減していない。
 お互いに本調子ではないのは確かだが、全くそれを感じさせない。
 勝負は五分か――否。
 片腕の動かない縷紅の方が不利だ。
 その上、隼の動きは全く衰えていない。
 息を詰め、時も忘れて緑葉は見守っていた。
――と。
 隼が縷紅の右手に回った。
「――っ!!」
 動かない右手が隙を生む。
 かわすには、隼の速さに間に合わない。
 ぴたりと。
 刀が胸の前に止まった。
 全てが静止する。
 二人の上がった息だけが、音として存在している。
「…参りました」
 笑んで、縷紅が言った。
 それを受けて隼が刀を鞘に入れる。
 緊張は一気に解けた。
「隼っ…縷紅様…!!」
 緑葉が駆け寄る。
 はぁーっと息を吐き、
「二人とも、無茶をなさる…」
「スミマセンね、緑葉。私もウサ晴らしがしたかったんですよ」
 あっけらかんと言われてしまっては、返す言葉も無い。
「それより…隼?大丈夫ですか?こんな事をして」
 振り返った時。
 ふわりと、その体が揺れた。
 縷紅が細い身体を抱き止める。
「…無茶し過ぎです」
「アンタに言われたかない」
 腕の中で、隼は口の端を吊り上げた。
「これだけ動ければ十分だろ」
「え?」
 隼が、真っ直ぐに縷紅の目を見る。
 これ以上無い、真摯な表情で。
「…頼みがある」
「頼み?」
 縷紅の身体を押し返して、隼はふらつきながらも自力で立った。
 添えようとした緑葉の手を、やんわりと拒否して。
「後で話す…だから、とりあえず、水を浴びてくる」
 確かに血と汗で酷い事になっている。
「あ…ええ。分かりました。一人で大丈夫ですか?」
 何の気なしに訊いたが、睨まれてしまう。
「死んでも連いて来てくれとは言いたくない」
 断固として言われ、縷紅は苦笑いするより無い。
「分かりましたよ。天幕で待ってますね」
 告げて、緑葉と並んで帰る。
 歩きながら、緑葉もまた苦笑いしていた。
「漸くアイツらしいアイツを見たと言うか…」
 その為にここまでしなければならないのかと思うと、苦笑が込み上げてくる。
「全く、貴方も貴方だ。“ウサ晴らし”なんて…」
「御心配をお掛けしました。でも良かったでしょう」
「確かに俺は面白いモノが見れました…けど!自重して下さい!!」
「あはは。スミマセン」
 全然反省していない。
 苦笑いで溜息を吐き、つい先程の顔を思い出す。
 またこんな笑みが見られて良かったな、横顔を見ながらそうしみじみと思う。
「…本当に、不思議な人達だ」
 小さく呟いた言葉は、当人である縷紅に首を傾けられたが、笑顔で首を横に振って誤魔化した。
 どんなに絶望しても、またこうやって笑顔で居られる。
 どんなに暗い夜も、明けない事は無いのだ。
 また沈んでも。
 必ずもう一度昇ってくる。
――そうであって欲しい。
 天を仰ぐと、太陽は真上に昇っていた。





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