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RAPTORS
11

 ふっと、不思議な浮遊感と共に縷紅は目覚めた。
 それで初めて、自分が眠っていた事に気付く。
 隼の寝台に凭れかかるようにして、その背には毛布が掛かっていた。
 はっとして顔を起こす。
 寝台は蛻の空だ。
――隼は…?
 顔を動かした事で、ピリっと首筋が痛んだ。
 手で押さえれば、乾いた血が指に付く。
 手の向こうに、否応なしに視界に入る、落ちた短刀。
 抜き身の刃を、じっと見つめる。
 銀の鈍い光。
――出来なかった。
 光を、感じた瞬間。
 同時に襲ってきた、死への恐怖。
 手にそれ以上、力は入らなかった。
――情けない。
 自嘲しか出てこない。
 死への恐怖など、持ち合わせていたとは。
 今まで、感じた事が無かっただけだろうか。
 いつも瀬戸際に居ながら、向き合った事が無かっただけ。
 自分が負けるなんて、思った事が無かったから。
――今までは。
 なんて甘いんだろうとまた自嘲し、深い溜め息と共に短刀を拾い上げた。
 その時、天幕の扉が開いた。
 罪悪感めいたもので、びくりと体を震わせる。
「縷紅様、お目覚めでしたか?」
 緑葉だった。
 ゆるゆると振り向き、顔を確認する。
 その言葉、表情から、既に縷紅がここに居る事を知っている様だった。
「…これは…貴方が?」
 掛けられていた毛布を手に取りながら問う。
 緑葉はにっこり笑って頷いた。
「…ありがとうございます…」
 素直に笑い返せない。
 驚きで鞘に戻しそびれた短刀は、そこに転がったままだ。
 隠すように、鞘に戻す。
 緑葉は黙ってそれを見ていた。
 気まずい沈黙の後、緑葉が口を開いた。
「縷紅様…お辛いでしょうが、御自愛下さい」
 悟られてしまった。
 数時間前の行動を。心の内を。
「貴方が死んでしまったら…皆の悲しみが増すだけです。況してやこんな…。やりきれないだけです」
「貴方は私に死ぬなと言うのですか?…肉親の仇である、私に」
 後ろ姿を向けたまま、ぽつりと言った。
 緑葉は首を横に振って、その背に手をかける。
「そんな事、言わないで下さい。俺はもうこれっぽっちも貴方を恨んではないから…。それより、姉貴が貴方達に託したものを、どうか、守って欲しいんです」
「……」
 事切れる直前、姶良は言った。
――こんな世界、変えてね、と。
 彼女に誓った筈だったのに。
 世界を変えると。敵無き世界を作ると。
 もう、無い方が良かった出逢いなど、作りたくはないから。
 理不尽な死を、もう二度と、この手で作りたくはないから――
 ゆっくりと、首を横に向ける。
 姶良と同じ瞳が微笑んでいる。
「もう、こんな事はよして下さいね?」
「…こんな無力な私でも、生きている意味は有りますか…?」
 誓いを果たす力すら、無い。
「当たり前でしょう?」
 微笑みを崩さぬまま、緑葉は言った。
「だって、貴方より力の無い俺が、こんなにピンピンしてるんですよ?」
 縷紅はやっと、ほのかに笑った。
「生きる事に資格なんか要らない筈です。生まれてきた以上は…。…そうだ縷紅様!!今貴方の力がどうしても必要なんです!!」
 唐突にここに来た理由を思い出した緑葉。
 縷紅は訝しむ。
「どういう事です?」
「隼を止めて下さい!!」




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