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RAPTORS


 独りで居ると闇に押し潰されそうで。
 でも誰かと目を合わせるのも怖くて。
 何かから逃れる様に、自然と足はある場所へ向かった。
 夜明け前。
 辺りはあまりにも暗く、静かだ。
 天幕の入口を潜る。
 寝台が一つ。
 その夜具は、夜目にもそれと判る程、赤く染まっている。
 近寄ると、乱れがちな寝息が耳に入った。
 矢張り、根の人達にとって砲撃は十分間接攻撃となり得ただろう。
 撤退してもらって良かった――そう思うと同時に、一人帰れなかった根の少年に申し訳なく思った。いくら自分で選んだ事とは言え。
 それだけではない。
 縷紅は、そっと隼の眠る寝台に寄りかかって座った。
 呼吸の音だけが、天幕の中――闇を、満たす。
「…何と詫びたら良いか…」
 眠っている隼に向けて、縷紅は言った。
「貴方達に託された物は、私には重過ぎました」
 黒鷹と隼が積み上げてきたもの。
「非力を、どうか、許して下さい…いいえ、許されはしないと分かっています。償える物なら償いたい…」
 あまりにも。
 あまりにも、失ったものが大きくて。
「私は、どうすれば良いんですか…」
 残された僅かな兵で戦い続けるのは無謀に近い。
 戦力差は歴然。
 頼れる物も無い。
 そして、あの大砲がある限り、迂濶に手出しは出来ない。
――あの時。
 もっと早く気付けていれば。
 後悔ばかりが頭を巡る。
「…このままでは黒鷹達が帰って来ても、無駄な犠牲を増やすだけです。…今になって、私のした事全てが裏目に出てしまった…」
 一度言葉にすると歯止めが効かず、次々と後悔が零れ落ちる。
「…分からない。どうすればいいのか…。砲撃を誰かが止めない事には、この軍はもう戦う事すら出来ない…」
 ――もう、行き場が無い。
 逃げる事も。
――逃げる?
 脳裏に浮かんだ言葉を掻き消したくて、頭を振る。
 そのまま、腕の中に顔を埋めた。
 何も考えたくはない。
 何も――見たくない。
 見たら、何もかも、崩れ去る。
 それで――許される筈が無い。
 この夜はいつか終わるのだから。
 日の元に出た時、何もかもさらけ出された時、己は耐え得るだろうか?
 その時が――最期かもしれない。
 仲間達の視線が怖くて。
 信じてくれる者が居て、何よりも失いたくないと改めて強く、強く感じた筈なのに。
 全てを壊すのは、自分だ。
――否。
 壊すのなら――
 顔を上げる。
 変わらない闇がそこにある。
 居ずまいを正して、反対を向いて座った。
 隼の姿が、青白く浮かんでいる。
 ひとつ、深呼吸をして。
 懐から短剣を出した。
 これしか、ない。
「…このままでは、私は降伏したいなどと言い出すでしょう…。その前に、消えます。――これが償いにも、責任を取る事にもならないと、解ってはいますが」
 勝手過ぎますね、と自嘲する。
「隼、黒鷹…どうか、生きて…」
 すっと抜かれた刃。
 目を閉じる。
 一つ、息をして。
 一思いに、喉元へ――
 鋭い痛みと共に。
 瞼に透けて見えたのは、とても眩しい――
 温かな、光。
 陽が、昇る。闇を裂いて。






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