RAPTORS 9 独りで居ると闇に押し潰されそうで。 でも誰かと目を合わせるのも怖くて。 何かから逃れる様に、自然と足はある場所へ向かった。 夜明け前。 辺りはあまりにも暗く、静かだ。 天幕の入口を潜る。 寝台が一つ。 その夜具は、夜目にもそれと判る程、赤く染まっている。 近寄ると、乱れがちな寝息が耳に入った。 矢張り、根の人達にとって砲撃は十分間接攻撃となり得ただろう。 撤退してもらって良かった――そう思うと同時に、一人帰れなかった根の少年に申し訳なく思った。いくら自分で選んだ事とは言え。 それだけではない。 縷紅は、そっと隼の眠る寝台に寄りかかって座った。 呼吸の音だけが、天幕の中――闇を、満たす。 「…何と詫びたら良いか…」 眠っている隼に向けて、縷紅は言った。 「貴方達に託された物は、私には重過ぎました」 黒鷹と隼が積み上げてきたもの。 「非力を、どうか、許して下さい…いいえ、許されはしないと分かっています。償える物なら償いたい…」 あまりにも。 あまりにも、失ったものが大きくて。 「私は、どうすれば良いんですか…」 残された僅かな兵で戦い続けるのは無謀に近い。 戦力差は歴然。 頼れる物も無い。 そして、あの大砲がある限り、迂濶に手出しは出来ない。 ――あの時。 もっと早く気付けていれば。 後悔ばかりが頭を巡る。 「…このままでは黒鷹達が帰って来ても、無駄な犠牲を増やすだけです。…今になって、私のした事全てが裏目に出てしまった…」 一度言葉にすると歯止めが効かず、次々と後悔が零れ落ちる。 「…分からない。どうすればいいのか…。砲撃を誰かが止めない事には、この軍はもう戦う事すら出来ない…」 ――もう、行き場が無い。 逃げる事も。 ――逃げる? 脳裏に浮かんだ言葉を掻き消したくて、頭を振る。 そのまま、腕の中に顔を埋めた。 何も考えたくはない。 何も――見たくない。 見たら、何もかも、崩れ去る。 それで――許される筈が無い。 この夜はいつか終わるのだから。 日の元に出た時、何もかもさらけ出された時、己は耐え得るだろうか? その時が――最期かもしれない。 仲間達の視線が怖くて。 信じてくれる者が居て、何よりも失いたくないと改めて強く、強く感じた筈なのに。 全てを壊すのは、自分だ。 ――否。 壊すのなら―― 顔を上げる。 変わらない闇がそこにある。 居ずまいを正して、反対を向いて座った。 隼の姿が、青白く浮かんでいる。 ひとつ、深呼吸をして。 懐から短剣を出した。 これしか、ない。 「…このままでは、私は降伏したいなどと言い出すでしょう…。その前に、消えます。――これが償いにも、責任を取る事にもならないと、解ってはいますが」 勝手過ぎますね、と自嘲する。 「隼、黒鷹…どうか、生きて…」 すっと抜かれた刃。 目を閉じる。 一つ、息をして。 一思いに、喉元へ―― 鋭い痛みと共に。 瞼に透けて見えたのは、とても眩しい―― 温かな、光。 陽が、昇る。闇を裂いて。 [*前へ][次へ#] [戻る] |