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RAPTORS

 その日、天の陣営は今までとは違う緊張感に包まれていた。
 一人の人物の存在によって。
 楜梛はその空気を感じながらも、的に矢を射掛けて楽しんでいた。
 見ようによっては弓矢の腕を鍛えているようなのだが、彼にとってこの行為は、退屈を紛らわす遊びでしかない。
 そこへ。
 この空気を作り出している張本人がやってきた。
「暢気なものですね」
 皮肉たっぷりに彼――赤斗は言った。
 彼にとっても、楜梛は弓矢の師に当たる。
「わざわざこんな低い所まで御苦労様ですな、将軍」
「戦のある地が俺の居所だ」
 鼻で笑って赤斗が言った。
「全権は当然、あなたに移行する訳ですね?」
 今までは繋ぎとして楜梛が指揮権を握っていた。
 だが将軍である赤斗が現地に着いた以上、楜梛はもう何の権限も持てない。
「いつまでもアンタの余興に戦を使わせる訳にはいかないんでね」
「流石、よく判っていらっしゃる」
 皮肉合戦以外の何物でもない。
「縷紅はどうしていた?」
 冷笑を向けたまま赤斗は問う。
「はて、何故私に問われますかな?敵軍の軍師など知りませんよ」
「ふん、惚けるか」
「戦場では見ないと言っているのですよ」
「戦に出ていない?」
 初めて赤斗の、皮肉を含んだ笑みが崩れた。
「そう不思議がる事でもないでしょう。軍師とは武力より知力を働かせる者。戦場には出ぬが常」
「…奴に限っては有り得んな」
「あなたが考えている程、頭の悪い者ではありませんよ」
「何故俺の周りは敵ばかりなんだ…?」
 思わず赤斗は呟く。
「何か?」
 柔和な笑みを崩さないまま、楜梛は聞こえないフリをする。
「見ものだな」
「はい?」
「奴の首を俺が取った時の……貴様の顔が、だ」
 それでも楜梛は笑みを崩さない。
「将軍までかの者が敵という事をお忘れで?」
「――そんなに天に戻されたいか」
「おっと、実力行使ですか。心配御無用、あなた様の邪魔は致しませんよ」
 赤斗は舌打ちして踵を返す。
 その背に楜梛は告げた。
「根ならば追い払っておきましたよ」
「…余計な事を」
「余計?」
「新しい兵器を持ってきた。これを試すには数が多い方が良いだろうと思っていたのに」
「それは、至りませんでしたな」
 頭を下げる楜梛を、苛立ちも露わな目で見やる。
 一方の楜梛は、今は敵となった、年若い友人の事を想う。
――縷紅…
 もうお前達が生き残る術は、
 無いかもしれない…。





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