RAPTORS 5 その日、天の陣営は今までとは違う緊張感に包まれていた。 一人の人物の存在によって。 楜梛はその空気を感じながらも、的に矢を射掛けて楽しんでいた。 見ようによっては弓矢の腕を鍛えているようなのだが、彼にとってこの行為は、退屈を紛らわす遊びでしかない。 そこへ。 この空気を作り出している張本人がやってきた。 「暢気なものですね」 皮肉たっぷりに彼――赤斗は言った。 彼にとっても、楜梛は弓矢の師に当たる。 「わざわざこんな低い所まで御苦労様ですな、将軍」 「戦のある地が俺の居所だ」 鼻で笑って赤斗が言った。 「全権は当然、あなたに移行する訳ですね?」 今までは繋ぎとして楜梛が指揮権を握っていた。 だが将軍である赤斗が現地に着いた以上、楜梛はもう何の権限も持てない。 「いつまでもアンタの余興に戦を使わせる訳にはいかないんでね」 「流石、よく判っていらっしゃる」 皮肉合戦以外の何物でもない。 「縷紅はどうしていた?」 冷笑を向けたまま赤斗は問う。 「はて、何故私に問われますかな?敵軍の軍師など知りませんよ」 「ふん、惚けるか」 「戦場では見ないと言っているのですよ」 「戦に出ていない?」 初めて赤斗の、皮肉を含んだ笑みが崩れた。 「そう不思議がる事でもないでしょう。軍師とは武力より知力を働かせる者。戦場には出ぬが常」 「…奴に限っては有り得んな」 「あなたが考えている程、頭の悪い者ではありませんよ」 「何故俺の周りは敵ばかりなんだ…?」 思わず赤斗は呟く。 「何か?」 柔和な笑みを崩さないまま、楜梛は聞こえないフリをする。 「見ものだな」 「はい?」 「奴の首を俺が取った時の……貴様の顔が、だ」 それでも楜梛は笑みを崩さない。 「将軍までかの者が敵という事をお忘れで?」 「――そんなに天に戻されたいか」 「おっと、実力行使ですか。心配御無用、あなた様の邪魔は致しませんよ」 赤斗は舌打ちして踵を返す。 その背に楜梛は告げた。 「根ならば追い払っておきましたよ」 「…余計な事を」 「余計?」 「新しい兵器を持ってきた。これを試すには数が多い方が良いだろうと思っていたのに」 「それは、至りませんでしたな」 頭を下げる楜梛を、苛立ちも露わな目で見やる。 一方の楜梛は、今は敵となった、年若い友人の事を想う。 ――縷紅… もうお前達が生き残る術は、 無いかもしれない…。 [*前へ][次へ#] [戻る] |