RAPTORS
4
「俺の名前を知ってるとは、何者だテメェ!?」
鶸が叫んだのは、意外な言葉だった。
…否、鶸らしいと言えばそうなのだが…。
「忘れたのかボケ野郎!!」
無論、言われた方は甘受する筈は無い。
「その口の悪さまで似てるとは、ますます何者だ!?」
「似てるも何も、誰に似てるって言うんだよ!?」
「故黒鷹親王様々だ!知らねぇのか!?」
「本人だよボケェ!!」
「ひっ!?」
引き攣った声を出し、接近戦から後ろに飛びのいた鶸の顔は、恐怖と驚きに青くなっている。
「あ…あいつは死んだハズだ…」
「いや、死んでねぇだろ」
「いや、お前は死んでるんだ」
「は?」
「かわいそうになぁ。不本意な死に方で死ぬに死ねてねぇんだなぁ」
「いや、ちょっと…」
「俺が成仏させてやる!!」
「はあぁぁぁ!?」
ダッシュして鶸は、黒鷹に刀を振り下ろした。
動きなら人一倍は速い黒鷹だからこそ、事無きを得たが。
「目ェ醒ませ馬鹿ヤロー!!」
「たのむ〜!成仏してくれ〜!そして俺を呪うな〜!」
「呪う価値も無ぇわ!!よく見ろ足あるだろ!」
「最近の幽霊は進化してるからなぁ〜(?)」
「コント長ぇんだよお前ら!!」
鈍い音と共にようやく場は納まった。
鞘付きの刀で殴られてうずくまり、静かに悶える二人を尻目に隼が言った。
「で、何なんだ?コレは」
自分達を囲むように立っている、武装した連中。今は鶸と黒鷹の騒ぎで動きを止めている。
よく見れば、まだ小さな子供も混じっている。
「盗賊だ。俺様がリーダー」
「威張れねぇよ、そこ」
立ち上がりながら、多少胸を張って答えた鶸に、黒鷹の冷めたツッコミ。
「俺ら悪くねぇよ!天の奴ら専門だから」
「俺が天の人間に見えたのか?フシ穴目!」
見兼ねて茘枝が口をはさむ。
「天の人間だからどうこうって問題でもないと思うんだけど…」
茘枝の言葉に鶸と隼が目を丸くする。
それを見て、代わりに黒鷹が答える。
「いくら国を滅ぼした奴らでも、その国の全員が悪者じゃねぇだろ。縷紅だってそうだし」
隼が不満そうに何か言おうとしたが、その横で目の色を変えるヤツがいた。
「あ、カモ発見」
「話聞いとけ」
鶸への説教は馬の耳並、またはそれ以下だった。
「あぁ、そうだぁ鶸?」
「なに…」
黒鷹のグーパンチが、気付いた時には、数メートル先に鶸をぶっ飛ばしていた。
何が起こったのか分からず、固まる場。
「…本日のメインイベント終了」
両手をはたきながら、黒鷹が言い放つ。
「なんなんだよ!?何が起こったんだ一体!?」
鶸が立ちながら叫ぶ。
「何が起こったって、当事者お前だから」
冷めきった隼の一言。
「こんな所で何やってんだっていう、五年分の怒り」
黒鷹が笑顔でそう説明した。
「俺だって必死だったんだ。この五年、結構必死で生きてた」
「へぇ?」
「コイツら全員、戦火を逃れた子供だ。盗みでもしなきゃ、生きていけない」
「…そうか」
珍しく真面目な顔の鶸に、黒鷹は相槌を打って、続けた。
「五年間お疲れ様っていう激励の一発だ。気にすんな」
「都合いいなぁオイ…」
「ま、アレだ、昔はよく無意味に殴り合ってただろ?お前ら」
隼の言葉に鶸の顔はますます渋る。
「そりゃガキの頃の話だろ…。今のはどう受けても本気だった」
殴られた箇所をさすりながら彼は言った。
「そう変わんねぇよ」
「変わる」
「あの頃は良かった…」
「ジジイかテメェ」
黒鷹のしみじみな言葉に、鶸と隼のツッコミがかぶる。
「ホンッとに、何も変わらない…って言うか、成長しないのね、アンタ達は」
三人に対しての、茘枝の鋭いツッコミ。
今ここに、少年達は再び集う。
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