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RAPTORS

 二人が戦場に着いた頃には、戦いは既に始まっていた。
 咆哮と金属音がまず耳に入る。
「遅ぇな隼!寝坊したか!?」
 旦毘が二人を見つけて、戦いながら呼びかけた。
「寝てねェよ!!この馬鹿が足引っ張るから!」
「馬鹿とは何よ!?失礼ね!」
「失礼は承知で言ってんだよ!」
 “こんな所で痴話喧嘩ですか”旦毘でさえ思っている。
「そんな事より縷紅はどこだ!?」
 隼は大声で訊いた。
 周囲の音に声が掻き消されそうだった。
「もっと前の方だ…動いているかもしれないけど!」
「分かった」
 軽く手を挙げて旦毘に礼を言い、自らも戦いながら前へ進んでいく。
「何で縷紅を!?」
 必死について行きながら栄魅が問う。
「心配なんだよ!!お前は来るな!前線は危ない!」
「ふざけないでっ――!」
 彼女は何か言い返していたが、人に揉まれてついに逸れてしまった。
 構うことなく隼は進み、縷紅を探す。
 もしも本当に緇宗が挑発に乗り、縷紅と対峙していたら…
 どうも、嫌な予感がする。
 別に縷紅が心配なのではない。縷紅が倒せなかったら、緇宗という敵はどうするのか。
 自分の手にも余るだろう。それは何となく想像できる。
――負ける。
 “緇宗”を乗り越える事が出来なければ、この戦は負ける。
 天の支配する世界が出来上がり、根も地も滅び、何もかも終わる。
 “新しい世界を作る”という誓いも。
「っ――縷紅…どこだ…!?」
 縷紅一人に任せて良い相手ではない。
 縷紅一人に、この国や世界、自分達の命運を委ねてはならない。
 行く手を阻む敵兵を一人、また一人と斬っていく。
 そしてようやく見つけた。
 宙を舞う血の様な紅い髪を。
「縷紅っ!」
 幸いまだ相手にしているのは普通の兵だった。
「隼…こんな所まで…」
 確かにそこは敵とぶつかる最前線。
「緇宗は!?」
「姿を見ていません。もしかしたら居ないのかも…!」
「挑発が無駄になったか」
「まだ分かりません。様子を窺っているのかもしれない」
「だろうな…!」
 敵の刃を受け、払い、斬る。
 何度と無く繰り返す。
 皮肉なものだ――隼は思う。
 黒鷹は、今自分が斬っている全ての人間にも、平和な未来を与えたいと思い、行動しているのに。
 今なら迷っていた黒鷹の気持ちも分かる。
 どうして世界を変える為の手段が戦しかない――?
 他に、方法が?
「そんな事…今更俺が迷ってどうする!」
 自分を叱って、更に剣を振るう。
 もう、後には戻れない。


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