RAPTORS
9
二人が戦場に着いた頃には、戦いは既に始まっていた。
咆哮と金属音がまず耳に入る。
「遅ぇな隼!寝坊したか!?」
旦毘が二人を見つけて、戦いながら呼びかけた。
「寝てねェよ!!この馬鹿が足引っ張るから!」
「馬鹿とは何よ!?失礼ね!」
「失礼は承知で言ってんだよ!」
“こんな所で痴話喧嘩ですか”旦毘でさえ思っている。
「そんな事より縷紅はどこだ!?」
隼は大声で訊いた。
周囲の音に声が掻き消されそうだった。
「もっと前の方だ…動いているかもしれないけど!」
「分かった」
軽く手を挙げて旦毘に礼を言い、自らも戦いながら前へ進んでいく。
「何で縷紅を!?」
必死について行きながら栄魅が問う。
「心配なんだよ!!お前は来るな!前線は危ない!」
「ふざけないでっ――!」
彼女は何か言い返していたが、人に揉まれてついに逸れてしまった。
構うことなく隼は進み、縷紅を探す。
もしも本当に緇宗が挑発に乗り、縷紅と対峙していたら…
どうも、嫌な予感がする。
別に縷紅が心配なのではない。縷紅が倒せなかったら、緇宗という敵はどうするのか。
自分の手にも余るだろう。それは何となく想像できる。
――負ける。
“緇宗”を乗り越える事が出来なければ、この戦は負ける。
天の支配する世界が出来上がり、根も地も滅び、何もかも終わる。
“新しい世界を作る”という誓いも。
「っ――縷紅…どこだ…!?」
縷紅一人に任せて良い相手ではない。
縷紅一人に、この国や世界、自分達の命運を委ねてはならない。
行く手を阻む敵兵を一人、また一人と斬っていく。
そしてようやく見つけた。
宙を舞う血の様な紅い髪を。
「縷紅っ!」
幸いまだ相手にしているのは普通の兵だった。
「隼…こんな所まで…」
確かにそこは敵とぶつかる最前線。
「緇宗は!?」
「姿を見ていません。もしかしたら居ないのかも…!」
「挑発が無駄になったか」
「まだ分かりません。様子を窺っているのかもしれない」
「だろうな…!」
敵の刃を受け、払い、斬る。
何度と無く繰り返す。
皮肉なものだ――隼は思う。
黒鷹は、今自分が斬っている全ての人間にも、平和な未来を与えたいと思い、行動しているのに。
今なら迷っていた黒鷹の気持ちも分かる。
どうして世界を変える為の手段が戦しかない――?
他に、方法が?
「そんな事…今更俺が迷ってどうする!」
自分を叱って、更に剣を振るう。
もう、後には戻れない。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!