違った物語も、悪くない。
両片想い(白→←鬼)白澤side
君に好きな人がいるっていう話を聞いた。
「―――、は?」
引き笑いしか浮かばなかった。

片両想い

いつも喧嘩ばかりしている嫌い合ってる関係はあったけどそれでも僕からすれば千年目の片思いの相手だ。そんな相手に想い人がいるだなんて。
「…絶望的じゃないか」
「え?何か言いました?」
その衝撃情報を口にした当の本人は何事もなかったかのように仙桃を手に首を傾げる。
「あぁ、なんでもないよ。桃タローくん」
平常心を装ってひらひらと手を振ってこたえる。
「で、その情報ってマジなの?」
あくまでからかうような態度で詳しく聞き出そうとする。どことなく言葉に詰まってしまい、心の中で舌打ちをした。
たかが一つの言葉に踊らされて、バカみたいだ。
「なんでも閻魔大王に所帯を持つ気はないのかと聞かれた時にそう答えたみたいですよ。シロが聞いてたみたいで言ってました。まぁ誰、とは言ってなかったので場をやり過ごすための口実かもしれませんけど」
はは、と軽く笑う桃タローくん。違う。それはありえない事なんだ。あの鬼が、自分の為だけに場をやり過ごす嘘などつかない。ましてや閻魔大王にそんな嘘なんてつくものか。
つまり、それは紛れもない真実だということを示すのだ。
「へぇ、それは面白い事を聞いた」
少し引きつりかけた頬を押さえて呟く。
「って、また鬼灯さんに茶々入れるつもりですか」
少し呆れたような目で見てくる桃タローくんをちらと見て天井を仰ぎながらしーと口を人差し指で押さえた。
「たまには良いじゃない」
ふ、と笑った。桃タローくんは呆れたように笑った。
「いつも、の間違えじゃないですか」
そんな声を背中で受け止めながら薬局の扉を開け放った。

「チッ、あなたですか」
開口一番の舌打ち。いつも通り。
「相変わらずだなお前」
いつも通りすぎて嫌になるくらいだ。
「なんです。そんな事言いに来たんですか。暇なんですか。働け白豚」
いつもの暴言。至って普通。
「小耳に挟んだんだけど好きな人いるの?」
少し止まる手。いつも通りじゃない。
す、と細長い目がこちらに向けられる。
「…それが何か」
いつも通りの抑揚のない声色。好きな人の話だと言うのに。
交わったままの視線。僕は耐えれなくなってふい、と視線を逸らす。
「へぇ、お前にもそういうのいるんだ」
最早死刑宣告に近かった。自分で自分の傷を抉っているものだ。
「ええ。あなたと違って私は一途ですので」
いつもの嫌味だっていつも以上に心に刺さる。つまりずっと想い人がいたってことなんだろ。
一途に誰かを想い続けていた奴を僕は想っていたのか。
当の本人はもう僕になんか興味もないように仕事を始めた。
こっち向け。僕を見ろ。念じても届かない。君の想い人が僕ならいいのに。
声に出してしまいそうになる勝手な僕の思いを必死に心の隅に追いやって尋ねてみる。
「ねえ。その好きな人ってどんな人」
きっと知ったら傷つくだけなんだろうけど、ただ純粋に気になった。
「教えてよ」
君の視線が再びこちらに向けられる。そしてきっと次は。その口が動いて。
君の心は誰のもとにあるのか。
僕はきっと知るのだろう。
            -fin-

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あきゅろす。
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