違った物語も、悪くない。
自己記録更新中(人僕)
顔面刺青の少年はナイフをいじくりながらソファに体を埋める。
「なぁなぁ戯言遣い」
ぼくの名を呼びながら、ナイフをぼくに向ける。
ぼくは何も言わず目つぶしの体勢を取る。
いつも通り変わらないやりとり。

自己ベスト

「で、何。そんな物騒なもの突きつけて何の用?」
「そりゃこっちのセリフだ。目潰しとか十分物騒だろーが」
けらけらと零崎は笑う。後数センチの距離で命を視力を掛け合い会話を交わしながら。
だけど圧倒的に不利なのは命をかけてる僕だ。視力と命大事なのは命の筈だ。
「そっちから仕掛けたんだろ。大体命と視力だったら視力の方がまだ軽いものだろ」
「いいや、死にたいと思ってるヤツにとっちゃ視力だけ失うのはごめんだろうな」
くるくる、とゆっくりとナイフを回転させる。
ぼくという存在の目の前で凶器は回転する。
僕の命なんて、この凶器でひとたまりもないんだろうなと考えながら。あぁだけどぼくなら図太く生き残るか、と悲しくも思いながら。
「そんなヤツはいっそ殺せって泣き叫ぶだろうよ」
「そんなヤツこそ、いざ刺されたら死にたくないって泣き叫ぶだろうね」
目つぶしの体勢で目の前で回転するナイフをただ見つめる。
今更動じることもない。命なんて掃いて捨てる程の物だ。
「飽きっぽいと定評のある俺だがな。今んトコ毎日自己ベスト更新しちゃってんだわ」
悪戯っぽい笑いを浮かべて零崎人識は笑う。
死んだ魚の目をしながら、ぼくは笑わない。
「きっとこれもうギネス狙えるレベルだなって思うんだが、どう思う?戯言遣い」
どう思う。どうも思わない。
あえて言うのなら
「そのギネス狙えるレベルって、君の殺人狂がいかに異常かってことかい?」
殺人狂は肩を揺らしくつくつと笑う。
「随分と活きのいい喧嘩売ってきたな。珍しい。これはいくらかな?戯言遣い」
「申し訳ないけど非売品。それじゃなかったらなにが更新されたの」
どうでもいいけど聞いてみる。右耳から左耳に聞き流す準備、おーけー。
何がきても驚かない。
「ん〜、戯言遣いが好きだって気持ちだな」
想定外の言葉に思わず目潰しの指が強ばる。
してやったり顔でぼくを見る零崎。
そして目の前のナイフが投げられて殺人狂の少年はぼくに身を預ける。
そして、ぼくは手をおろし少し小さい少年の頭を少しだけ撫でてみる。
自己ベスト更新?ベストがどこだか、よくわかるな。
           -fin-


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あきゅろす。
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